山岳遭難が過去最多…「登山届」手軽に、確実に 埼玉県警が「ヤマップ」と協定 「コンパス」に続き2例目
昨年1年間で、県内の山岳遭難件数が過去最多の87件に上ったことが、県警のまとめで分かった。一方で登山届提出件数は23件で全体の約26%と低水準にとどまっている。現状を受け、県警は衛星利用測位システム(GPS)を使った登山地図アプリを運用する「ヤマップ」(福岡市)との協定を締結した。同社のアプリを登録すれば、スマートフォンで簡単に登山計画書を作成でき、県警にも情報共有される。登山届の提出促進に加え、遭難防止や捜索救助活動の迅速化へ向け、有効な一手となりそうだ。
■遭難件数と死者最多
県警地域総務課によると、昨年の山岳遭難件数は87件、遭難者は97人で前年と比べて5件6人増加。死者は14人で2人増えた。遭難件数と死者数は1995年の統計以来、過去最多となった。遭難の内訳は滑落25件、道迷い20件、転倒が19件で上位を占めた。
背景には新型コロナウイルスが流行して以降、密集を避けるアウトレジャーとして新規登山者が増加したことがあり、危機管理能力の低さや準備不足が遭難件数を押し上げたとみられる。遭難した97人のうち、登山経験が1年未満は25人(26%)だった一方、20年以上の人も24人(25%)とほぼ同数いた。経験豊富な高齢者が体力を過信し、遭難するケースも珍しくない。
救助の迅速化を図るため、県警は登山届の提出を呼びかけているが、提出率が低い現状がある。要因としては、これまでは登山口ポスト前で記入して投函(とうかん)したり、事前に登山計画を県警に提出するのが主な手段だったことで、「面倒」という声が多く、さらに標高千メートル未満の”低山”の中にはポスト自体が設置されていない山もあったという。
■電波が届かなくても
ヤマップのアプリでは、事前にコースタイムを自動計算して無理のない登山計画が作成できるのと同時に、登山日や人数など必要事項を入力して「提出ボタン」を押すと、大切な家族などとともに、県警へも情報が共有される。
また、電波の届かない山中でも、ユーザー同士が擦れ違うと位置情報を交換。どちらかがオンラインになれば、同社のサーバーに位置情報が送信される機能もあり、遭難者の捜索を開始するまでの時間が大幅に短縮できる。同社は2013年3月のサービス開始以来、今年1月で350万ダウンロード数に到達した。
同社の小野寺洋マーケティング戦略本部長は「登山計画を作る文化で、道迷いなどの遭難者を劇的に減らすきっかけになるのでは」と強調。県警の福島謙治地域部長は「心強い味方と協定を結べた意義は大きい。アプリを活用し登山届を出してもらえれば、いち早く救出、救助ができる。遭難が一件でも多く減ることを期待したい」と力を込めた。
県警のこのような取り組みは、昨年6月にスマホなどのアプリで登山計画書の提出が可能な「コンパス」を運用する日本山岳ガイド協会と協定を締結して以来、2例目。