最悪をいつも想定する“警官の妻”、駐在所で絶やさぬ笑顔「大変ではない」 夫が妻に感謝状、街を照らす光
地域の安全を守りたい―。この思いを抱くのは駐在所で働く警察官だけではない。支える妻も同じ気持ちだ。春日部署豊野駐在所に勤める富田恵介警部補(41)の妻麻里子さん(41)は豊野駐在所に16年間住み、夫や子供と歩んできた。「地域に育てていただいたことに感謝したい」と麻里子さん。持ち前の責任感と絶えることのない笑顔で夫の背中を押し、住民を明るく照らしている。
長年、住民との良好な関係を保ち、地域警察活動に献身的な協力をしたとして昨年12月、県警の福島謙治地域部長から麻里子さんに感謝状が渡された。慣れ親しんだ豊野駐在所の前で、夫の富田警部補らと写真に納まり、「少しは地域貢献できたかなという達成感もあり、表彰していただいたことは本当にうれしい」と満面の笑みを見せた。
■常に携帯所持
富田警部補が豊野駐在所勤務となったのは2007年2月。2人が25歳の時だ。「地域のためにじかに役に立てる仕事をやってみたかった」と富田警部補。麻里子さんも大学時代に地域政策を専攻し地域の街づくりや経済を学んでいたこともあり、地域密着の警察業務である駐在所の手伝いに前向きな気持ちがあった。
それでも実際は、駐在所はさまざまな事案に対応しなければならず、夫が当直勤務や入校、事案処理などで不在の時は不安と隣り合わせだ。
来所者への直接応対は常に最悪の状況を想定し、必ずインターホン越しにどのような人かを確認。危険性を含め「どう対応するべきか、自分に何ができるか、避難経路はどうか」を頭の中で描く。夫にいち早く連絡したり、110番や119番できるように、常に携帯電話は所持している。
ただ不安ばかりではない。夫が不在中に道案内を解決させたり、夫との連絡をスムーズに取り次ぐなど事案を素早く適切に処理した際に、来所者から感謝されることにやりがいを感じるという。来所者に対し、常に心がけているのが「相手の立場を考えて少しでも不安を取り除けるよう、明るく親切に接すること」だ。
■協力して子育て
地域住民との交流も長年、心の支えになった。長男陽優(あきひろ)さんが生まれて3カ月、縁もゆかりもない地で始まった新生活。豊野駐在所は市の農村地帯が管轄で昔から住んでいる人も多く、時には野菜をお裾分けしてくれたり、ママ友との付き合いが広がったり「この地域に育ててもらった」と実感する。
次男紀陽(のりあき)さんも誕生。子育てと駐在所の手伝いを両立する中、夫が勤務中でも近くにいてくれることが何よりも心強く、互いに協力しながら子供たちの成長を見守れる環境だったことも大きかった。麻里子さんは「(夫は)感謝の思いをいつも伝えてくれて、とても居心地がいい。そういう意味で大変だと思ったことはないですね」。
■変わらぬ思い
「あっという間」と回想する16年。4月には陽優さんが高校2年生、紀陽さんは中学1年生になる。子供たちの成長とともに居住スペースが手狭になったり、時々建物の不具合が出たりするなど家庭環境は変化した。ただ決して変わらないものもある。それは「困って、ここを訪れた人に安心して帰ってほしい」(麻里子さん)という思いだ。
表彰を終え、自分のこと以上に喜ぶ夫から「いつも、ありがとう」と声をかけられた麻里子さんは「こちらこそ、いつもありがとう」。少し照れ笑いを浮かべながら、感謝の言葉を贈った。