埼玉新聞

 

埼玉中小企業家同友会【設立50周年・地域に生きる(1)】トレパル・山口将秀代表、息子と夢見た共生社会

  • 利用者から「働くことの尊さを教えてもらっている」と話すトレパルの山口将秀代表

    利用者から「働くことの尊さを教えてもらっている」と話すトレパルの山口将秀代表

  • 利用者から「働くことの尊さを教えてもらっている」と話すトレパルの山口将秀代表

 県内の中小企業経営者らが加盟する埼玉中小企業家同友会(会員約千人)が今秋、設立50周年を迎える。経営を学ぶ「社長の学校」として1974年に設立。コロナ対策に加え、原材料費やエネルギー価格の高騰を受けながら、地域の課題解決をビジネス化し、「ウィズ・コロナ」を見据えた新事業を展開するなど個性的な企業が多く集まる。人を生かし地域に生きる地元企業16社を紹介する。

■トレパル(志木市)山口将秀代表

 志木市上宗岡に立つ、ごく一般的な物流倉庫。2階の仕切られた一画に、その就労移行支援事業所はある。障害のある人たちが通い、就職へ向けた知識や技術を学ぶ。

 「(倉庫会社と)企業一体型がうちの良さ」と山口将秀代表(44)は語る。箱詰めや仕分けなどの作業を直接請け負えるだけでなく、利用者が普段から倉庫の従業員と接することで働く環境を間近にイメージできる。他にも色鉛筆削り、メダカの餌の封入、地域の施設での清掃作業に加え、ビジネスマナーの講習、就職面接の練習など教える内容は多岐にわたる。

 現在の利用者は精神や知的障害のある10~50代の男女十数人。法律上では2年以内に就労と定められているが、平均10カ月で職に就く。「卒業」した利用者の生き生きした姿を見るのが何よりうれしい。

 事業所を開いたのは2018年1月。一つのきっかけは長男に知的障害があったことだった。「障害者というだけで仕事を選べない。何とか働く機会を増やせないか」。成長した姿を重ね合わせながら共生社会の実現を夢見た。

 そんな矢先の19年3月、長男が突然この世を去った。まだ9歳。「この事業をやれと教えるために生れてきたのかな。また会える時に頑張ったよと言えるように」。以前より使命感は強まった。

 昨年、コロナ禍で新規事業を立ち上げ、今度は吉川市に設計事務所と一体の事業所を開設した。利用者はオンラインを駆使して自宅で製図のスキルを学べる。「働くことがゴールではない。障害のある人がいろんな業界で活躍することで、職場で理解が深まり偏見と差別が少しでもなくなっていけば」。長男と見た夢にはまだまだ続きがある。
 

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