伊勢丹浦和の新画廊、羽ばたく美術家たち 「鎌倉文士に浦和画家」と言われた時代も 織りなす人間ドラマ
川口市在住の日本画家で画商の久保田純也さん(48)は伊勢丹浦和店(さいたま市浦和区)が新たに設けた美術ギャラリー「ザ・ステージ♯6アート」を拠点にプロの若手美術家の育成に取り組んでいる。久保田さんは同ギャラリーの企画を任された一人。若手美術家の面倒を見る一方で現役の画家として制作に励む「プレイングマネジャー」だ。
かって多くの画家が住んでいた旧浦和市は、作家が多く住んでいた神奈川県鎌倉市とともに「鎌倉文士に浦和画家」といわれた。久保田さんは、その歴史を大切にしている。「ザ・ステージ♯6アート」の運営も好調で「さいたまゆかりの美術家を一人でも多く育てたい」と話す。
■きさくな存在
久保田さんは、福岡市出身。都内で会社員をしながら独学で日本画を学んだ。川口市には2010年に移住、「木蓮(もくれん)」の名前で作家活動を始めた。
画商の仕事を始めたのは昨年9月から。久保田さんと知り合いの画商が人手不足で困っていた時に「世話をしてきた若い美術家の面倒をみてほしい」と画商を兼ねることを勧められた。気さくで若手美術家からは「兄貴」のような存在を見込まれての頼みだった。「制作者でもあるのでプロ志望の若い人たちの思いに寄り添いたい」と引き受けた。
浦和店7階には画廊とプチギャラリーがあるが、昨年9月に現代美術をテーマにした「ザ・ステージ♯6アート」を6階に開設した。設置を提案したフロアマネジャー松本優祐さん(31)は「美術は楽しいと思っていただけるギャラリーにし、気軽に足を運んでいただきたい」と話す。
■チャンス
「展示を核に、美術家のトーク、インタビュー、若いファミリー層も楽しめる企画で若手美術家の知名度を上げていきたい」と久保田さんは話す。
美術市場は、作品が高額な値段で取り引きされデパートのギャラリーも、高額な作品が展示されていた。しかし、作品の価値が多様化し若い感性に共感する新しい美術ファンが市場に参入してきた。「若手美術家がプロになるチャンスが広がってきた」と久保田さん。
若手美術家も新ギャラリーに期待を寄せる。樹木をモチーフに日本画を制作している朝霞市の設楽雅美さん(38)は画材店でアルバイトをしながら制作している。「以前、個展をギャラリーを借りて開いたが、人があまり来ず赤字になった。デパートで個展が開催できたらうれしい」と歓迎する。「楽園」をテーマにアクリル画を描く都内に住む長沼慧さん(32)は「若い人たちがデパートで個展を開ければお互いの刺激になる」と期待する。