埼玉新聞

 

摂食障害、気軽に語り合える場所を 悩む人が集まるグループ立ち上げ「生きるのに疲れたら集まって」

  • 「食で悩んでいたからこそ、体に優しい自然食のものを届けたい」と話す渋谷哲生さん=さいたま市南区

 さいたま市大宮区の渋谷哲生さん(28)は摂食障害で悩む人が集まるグループ「摂食障がい心の居場所 たちあおい」を6年前に立ち上げた。自らも5年間、摂食障害で苦しんだ渋谷さんは「孤独と不安に襲われ、生きるのに疲れたら集まれる場にしたい」と話している。

■「お客さんとの交流、楽しい」

 「納豆~、納豆~」。南区大谷場の静かな住宅街。毎週火曜日の昼すぎ、一台の移動販売車に高齢者が集まる。車の中には納豆や豆腐、総菜など約100点が並ぶ。渋谷さんは移動販売の仕事を始めて4年目。「人間不信だった昔の自分がうそのように、今はお客さんとの交流が楽しい」

■ストレスで過食

 大宮区の中学卒業後、深谷市の私立高校に進学したが人間関係に悩み、1カ月で中退した。「引きこもり」でストレスから過食を繰り返し、175センチ60キロだった体重が1カ月で78キロになった。久々に会った友人に「太ったね」と言われ、今度は一転ダイエット。3カ月で23キロを落とした。

 その後も体重の急激な増減を繰り返し、17歳の時に専門医に相談。「摂食障害」だと分かった。考えることは食べ物のことばかり。精神的に不安定になり「生きる希望がない。死にたい」。何度も何度も両親に訴えた。

 「生活環境を変えたら」とアドバイスを受け、18歳の時に沖縄・宮古島で1カ月間の1人暮らし。初めて親元を離れて生活した。島の人たちの優しい心や多様な生き方に触れ、少しずつ体形や食べ物ばかり考える時間が減り、「追い詰められていた」心は徐々に和らいでいった。

■元気な姿で恩返し

 2013年10月に立ち上げたグループ「たちあおい」。名前は「大きな志」という花言葉に由来する。渋谷さんは同じ摂食障害で悩むメンバーと月1回、交流会を開く。摂食障害になると、食べ物への不安から「孤独」を一層強く感じるようになるという。ゲームや運動を一緒に楽しみながら「孤独ではない。あなたには仲間がいる」とメッセージを送る。ネットラジオやブログも配信し、「当事者が気軽に悩みを語り合える居場所」を目指す。

 納豆の移動販売では、さいたま市を中心に、週末は東京葛飾区まで車を走らせる渋谷さん。摂食障害だった自分に寄り添ってくれた仲間や両親。多くの支えが、今は生きる希望になり、前に進む「力」になっている。渋谷さんは「元気に働く姿を見せて恩返ししたい」。目を輝かせて話した。

■27日、浦和区で講座

 27日には、渋谷さんが参加する講座「摂食障がい克服へのアプローチ」を開催。たちあおいメンバーの討論会など、摂食障害への理解を深める。JR浦和駅東口の浦和コミュニティセンターで午後2時~同4時。入場無料。

■摂食障害

 食事を取らなくなる拒食症、極端に食べる過食症などがある。拒食症では低栄養から体の不調を訴え死に至る場合もある。過食症は食べては嘔吐(おうと)を繰り返し体重増加を防ぐ。思春期の女性に多く、ストレスなどが原因といわれる。

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