埼玉新聞

 

蜷川幸雄さんの魂受け継ぎ、さいたまでシェークスピア劇上演 吉田鋼太郎さん、演出2作目に挑む

  • 「責任の重大さを実感している」と話す吉田鋼太郎さん=23日午後、さいたま市中央区

 川口市出身の世界的演出家、故蜷川幸雄さんの後を継いで、「彩の国シェイクスピア・シリーズ」の2代目芸術監督に就任した吉田鋼太郎さん(60)率いる史劇「ヘンリー五世」が、2月8日から彩の国さいたま芸術劇場(さいたま市中央区)で上演される。吉田さんは「全編に流れているもの、全体をつかさどっているのは蜷川さん」とし、蜷川さんの魂を受け継ぎつつ、シリーズ演出2作目に挑む。

 「シェークスピアは、地面に捨て去るせりふは1個もないんだ」。1月下旬、同劇場の稽古場に吉田さんの張りのある声が響き渡った。フランス皇太子や軍人が決戦の夜明けを待つ場面。「なぜ、そんなに(助詞の)『が』を強く発音するの」「相手の言葉をキャッチして」。一つの言葉、一つの視線さえにも妥協を許さない指導をしながら、大阪弁やジョークで笑わせる品位とわい雑さ。まるで吉田さん自身がシェークスピア劇を体現しているかのようだ。

 1998年にスタートし、シェークスピア全37戯曲の完全上演を目指す同シリーズ。蜷川さんの後継者として2017年12月の「アテネのタイモン」からシリーズを再開。吉田さんは「2作目はいよいよ真価を問われる気がして、責任の重大さを実感してます」と緊張の面持ちで話す。

 吉田さんは東京都出身。高校2年生の夏休みにシェークスピア劇「十二夜」を見て面白さに衝撃を受けた。入学した上智大学では英語でシェークスピア劇を演じる研究会に入ったものの、芝居ばかりで大学を中退。吉田さんは「シェークスピア劇は、せりふは多いし等身大で演じられないキャラばかりで、すっごく大変。やりたくないけど、やらないと落ち着かない。取りつかれちゃって中毒みたいになっている」と笑う。

 「ヘンリー五世」は13年に蜷川さん演出で上演された「ヘンリー四世」のその後の物語だ。英仏百年戦争の激戦・アジンコートの戦いに臨む人々の群像劇。主演の松坂桃李さん(30)が若きイングランド王ヘンリー五世を演じる。吉田さんは説明役(コーラス)で出演。英国では有名だが、日本ではあまりなじみのない今作について、「王になったばかりの青年の苦悩と成長の物語。だからどんな人も感情移入できるし、身近なシェークスピア作品になっている」と強調する。

 シリーズの芸術監督に就任して約2年。吉田さんは「埼玉が第二の故郷のようになっている。来ると安心しますね」。04年、蜷川さん演出の「タイタス・アンドロニカス」で主演して以降、同シリーズにほぼ毎年出演。1年ほど同劇場に行かなかった時期に「埼玉に行かないと寂しい」と感じたそうだ。

 「ヘンリー五世」含め全37戯曲完全上演まであと4作。吉田さんは「その後もシリーズは続けたい。埼玉の方々が『もっと続けて』と応援してくれれば、その可能性が出てくる」と話した。

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