被差別部落に生まれて…石川さんの半生たどった書籍出版 著者「ポスト学生運動世代、私なりの狭山闘争」
埼玉県狭山市で1963(昭和38)年、女子高校生が殺害された「狭山事件」。事件発生から今年で60年を迎え、罪に問われながら部落差別による冤罪(えんざい)として無実を訴え続けている石川一雄さん(84)の半生をたどった書籍「被差別部落に生まれて 石川一雄が語る狭山事件」(岩波書店)が17日、刊行された。著者で静岡大学教授の黒川みどりさん(64)は「石川さんに問われた罪は部落差別によるもの。1人の人権問題を多くの人に知ってほしい」と話す。
同書は、狭山市内にあった被差別部落出身の石川さん自身に焦点を当て、狭山事件について部落差別をキーワードに再考したもの。2021年夏から十数回にわたった取材を基に構成され、石川さんの生い立ちから事件後に過ごした獄中、仮出獄後に再審を求め活動する現在まで、部落差別に影響されながらも闘う人生を文字で表現した。
黒川さんは大学生のころから日本近現代史の研究の一環として部落差別史に興味を持ち、これまでにも多くの書籍を執筆してきたが、狭山事件に関する書籍は初めて。大学に入学した70年代後半は、校内に狭山闘争に関する立て看板はあったものの学生運動は下火で、深く関わることはなかったという。学生時代から40年以上を経て執筆した同書には強い思い入れがあり「ポスト学生運動世代の私だからこそできる、私なりの狭山闘争」と位置付ける。
19日には、東京都中央区内で同書の出版発表会が行われ、黒川さんのほか、石川さんと妻の早智子さん(76)や支援の中核を担う部落解放同盟県連委員長の片岡明幸さん(76)も駆け付けた。
早智子さんは当初、黒川さんから書籍執筆の話を聞き、事件に関する本はこれまでに複数出版されているとして難色を示したが、黒川さんに「人間としての石川一雄を書きたい」と言われ協力を決めた。「これまでの本の多くは裁判に関する話題が中心。この本では石川自身が弱さも強さも全てをさらけ出したことが分かる」と話す。
石川さんも「小さいころから思い出せる限りのことを話した」と振り返り、「冤罪を晴らすことができたら、今まで一度も行ったことがない両親の墓で手を合わせたい」と語った。
今年は鑑定人尋問などの実施について、夏までに裁判所の判断がなされるとされている勝負の年。黒川さんは「今はさまざまな人権に関する問題が叫ばれているが、部落差別も同じ。この本を通して理解の裾野が広がり、多くの人が事件に関心を持つきっかけになればうれしい」と期待を込めた。
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「被差別部落に生まれて 石川一雄が語る狭山事件」(岩波書店、税抜き2500円)