埼玉新聞

 

大人のくつろぎ時間を…小鹿野の旅館が「託児サービス」開始 子育て世代の観光、町の出生数低下にも一石

  • 元保育士の杉野結喜さん(中央)と木育遊びをする、ベビーシッティングサービス利用者の子ども=5月29日、埼玉県小鹿野町小鹿野の須崎旅館

    元保育士の杉野結喜さん(中央)と木育遊びをする、ベビーシッティングサービス利用者の子ども=5月29日、埼玉県小鹿野町小鹿野の須崎旅館

  • 元保育士の杉野結喜さん(中央)と木育遊びをする、ベビーシッティングサービス利用者の子ども=5月29日、埼玉県小鹿野町小鹿野の須崎旅館

 出生数が減少し、昨年に初めて30人を割った埼玉県小鹿野町で、1907(明治40)年創業の老舗宿「須崎旅館」が5月から、秩父地域初の宿泊施設内ベビーシッティングサービスを始めた。館内で3カ月~12歳までの子どもを預かり、宿泊客に大人のくつろぎ時間を楽しんでもらう。今後、横瀬町のベビーシッター事業者と連携し、子連れの宿泊客に快適な秩父旅を提案していく。若女将(おかみ)の須崎真紀子さんは「全国の子育て世代に秩父の魅力を伝え、移住・定住の促進で町の出生数低下に歯止めをかけたい」と意気込む。

 同旅館では以前から、「子どもを預けてゆっくりと自分の時間を過ごしたい」といった声が、子育て中の利用者から寄せられていた。「(旅館の)周りにはワイナリーやエステなど、大人が楽しめる施設がそろっているが、子どもを預けるような施設はなく、子連れの利用客には案内できずにいた」と須崎さんは語る。

 ベビーシッティングを担当するのは、保育士と幼稚園教諭10年の経歴を持つ、横瀬町の杉野結喜さん(29)。1年半前に千葉県から移住し、町地域おこし協力隊として活動する傍ら、ベビーシッター事業「ネイチャー・シッター」を立ち上げ、秩父地域の子育て世代を支えている。「都内の保育園や子育て支援施設は、マンションの中にあることが多く、子どもが自由に走り回れる環境が少ない。秩父地域は都内から近く、自然がたくさんあるので、子どもの自発的な力を育むことができる」と、シッター事業を始めた理由を語る。

 5月末、山梨県から訪れた門脇加奈子さん(41)が同旅館に宿泊し、5歳と3歳の娘を杉野さんに2時間預けた。門脇さんは「子どもが騒ぎ、周りのお客さんに迷惑をかけてしまうのが心配で、なかなか旅行できずにいた。2時間見てもらうだけでも、温泉にゆっくり入るなど、リフレッシュできる」と話した。

 サービスを利用する際は、杉野さんのホームページから予約を入れ、宿泊前にオンラインでカウンセリングを行う。杉野さんは子どもの年齢や好きな遊び、保護者の要望に合わせ、シッティングのメニューを作成し、当日に旅館内で利用者を迎える。門脇さんの娘2人はこの日、木育遊びやリズム体操、絵描きなどを杉野さんと一緒に楽しんだ。

 小鹿野町こども課によると、町内の出生数は2001年の115人以降、減少傾向にあり、22年は28人、23年は24人と深刻な状況が続いている。町は19年から、第3子以降の子育て支援金を15万円から50万円に増額する少子化対策を導入したが、現在までの累計利用者数は49人にとどまっている。

 若者の移住定住を図るため、同町は本年度から、まちづくり観光課内に「移住定住推進室」を設置。今後、町民を対象にアンケート調査を実施し、移住者も地域住民も快適に生活できる環境整備を進める。

 須崎さんは「長年この町で旅館を営んでいる以上、深刻化する少子化問題に、ただ指をくわえて見ていることはできない。まずは、子育て世代が秩父観光を楽しめる環境をつくり、地域の魅力を広めていきたい」と話した。

 宿泊施設内ベビーシッティングに関する問い合わせは、須崎旅館(電話0494・75・0024)へ。

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