覚醒剤に溺れた日々から2年で社会復帰 父親の愛を実感…元暴走族リーダー、立ち直った人生体験を本に
自らを「魂のボーカリスト」と言うシンガーソングライター、杉山裕太郎さん(45)の著作「ありのままを受け止めて・自分の子供が壊れる前に読む本」(啓文社書房、税抜き1600円)が出版された。元暴走族リーダーで覚醒剤に溺れた日々、父親の愛を実感した瞬間を契機に崖っぷちから立ち直り、2年間で社会復帰を果たした人生体験を、これまで埼玉県内外で講演してきた。体験あってこその貴重な教訓が、出版した本に盛り込まれている。
■23歳の夜
23歳の頃のある夜、岐阜県の実家で、杉山さんは覚醒剤の注射器を右腕に刺した。「おれは、お前らのせいでこうなったんや」と眼前の両親に叫んでいた。
しばらく黙っていた父が「お前、そんなもんいつからやっとったんや」と言う。杉山さんは「そうや、2時間に1回や。おれは人生終わったでよ」と返した。
突然、父は大声で泣き、うなだれている杉山さんの背中をさすり「ごめん、ごめん」と繰り返した。初めて見る父の泣き顔だった。「いまさら何を」と心の中でつぶやいていた杉山さんだが、父の次の言葉が胸に突き刺さった。
■お前は宝物
「お前は、お父さんとお母さんの大事な息子なんやぞ。宝物や。だから、こんなことしとったらあかん。お前が立ち直るためやったら何でも協力する。一緒に頑張ろう」。「父はそう叫び、私を強く抱きしめました」。この時実感した父の愛が、杉山さんのその後の人生の原点になった。
杉山さんはその後、2年間で薬物依存から脱した。大学で学び直し、悠恵さんと結婚、7歳と2歳の女の子の父親になった。
「23歳のあの夜のことがなかったら、私はこの本を書いていないし、歌も歌っていない。親になった今、あの時の父母の苦しみやつらさも痛いほど分かる」と振り返る。
■立ち直るヒント
どうして地獄から立ち直れたのか、そのヒントをこの本に織り込んだ。
「環境を変えて、薬物とは無縁の世界に身を置くことで、自分自身が変わる」。更生施設に入るより、人生の目標を見つけ、夢を追いかけることが大事だと説く。
「自分に自信が持てないうちは逃げていい。自信が持てるようになれば、薬物などつまらないものに手を出して、今まで積み上げてきたものを台無しにすることなどできなくなる」と言い切る。
子育て中の親や悩みに苦しむ子どもや青年たちへ向けたメッセージも書きこんだ。「もめごとの背景には必ず愛と共感の不在がある」という。「それはだめ」ではなくて「そうだよね」という共感が大事と説く。
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杉山さんはさいたま市在住で、県内外で講演活動や演奏会を続けてきた。10月から、千葉県柏市に拠点を移した。