埼玉新聞

 

旧市立川口高・野球部OB、9年越しに引退試合 震災で中止、心残り…当時の3年生、校舎取り壊し前に集う

  • 9年ぶりに大集合した2011年卒業の市立川口高校野球部のOB、OGたち=1日、川口市

 高校野球の強豪だった川口市立川口高校野球部。2011年3月12日、この年、卒業する3年生は恒例の「卒業記念試合」を予定していた。しかし前日に東日本大震災が起き、引退試合は中止に。それから9年の歳月が流れた。学校は県陽高校、川口総合高校とともに、18年4月に開校した川口市立高校に統廃合され、12月からかつての校舎とグラウンドを新校の総合グラウンドにする工事が始まる。これを機に当時の野球部3年生が、かつてのままの野球場に集い、「引退試合」を開催した。

 当時の3年生は現在27歳になり、会社員や市役所職員、小学校教師などになって働いている。

 「卒業記念試合が中止になったのはずっと心残りだった。部員たちは卒業して、それぞれ違った立場で頑張っている。校舎やグラウンドが12月中旬に取り壊されると聞いて、節目として引退試合をやろうと提案しました」と当時の投手で、今は家業の菓子店で菓子職人として働く村田尚斗さん(27)はきっかけを話す。

 「自分は投手だったが、むしろチームの盛り立て役。ミスをした仲間に、監督との橋渡し役をやるとか、皆を景気づける役回りを意識してやっていた」と振り返る。

 村田さんの父賢伸さん(57)も、一緒に菓子を作る兄勇斗さん(29)も、同じ市立川口高の野球部員だった。

 当時の3年生部員は31人。うち21人が引退試合に集まった。女子のマネジャー2人も来た。

 川村(旧姓・小川)恵未さんは「あの頃、男子部員たちは悪ふざけばかりしていた。でも試合では切り替えて真面目。疲れていても、私たちマネジャーに気を遣う紳士だった。私は人間関係と人との接し方を学んだ」と話す。

 川村さんは大学へ進み、今は都内の不動産会社に勤める。大学の同級生で、さいたま市の高校でサッカーをやっていた男性と結婚した。

 もう一人のマネジャー、長尾(旧姓・今西)久美さんは美容の専門学校へ進み、今は浦和駅前の百貨店で働いている。グラウンドで笑い転げながら野球をやる男子たちを眺めながら、「久しぶりに皆と会った。チームワークが昔と変わらない。仲良くなければ、こうならないね」と目を細めた。

 大学を出てから台湾との貿易商社の営業マンになった町田将平さん(27)は試合途中でピンストライプの市立校のユニホームを脱ぎ、スーツに着替えた。「面白くしたいから」と言ってスライディング。スーツは泥だらけになった。「町田君は相変わらずムードメーカーだな」と長尾さん。

 当時のキャプテン、平山照起(てるゆき)さん(27)は「卒業して9年。こうやってあの頃の心を忘れずに集まってきた。最高の仲間だ。一生大切にしていきたい。村田に感謝したい」と話した。

 紅白戦で行われた試合は引き分け。MVPに選ばれたのは「ダイキ」こと、草加市の小学校で教諭をしている長谷川大樹さん(27)。「9年ぶりなので最初は壁を感じた。でも野球をやるうちに昔の仲間に戻った」。長女の心音ちゃん(2)を抱いてトロフィーを受け取り、「引き分けは神様がもう一回やれということだ。またやろう」と再会を口にした。

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