埼玉新聞

 

【部活どうなる(1)モデル事業】週末の指導は専門家 戸田市立新曽中、平日指導の教員休む 課題と展望は

  • コーチの力石隆広さん(中央)が見守る中、練習する生徒ら=昨年11月、埼玉県戸田市立新曽中学校

    コーチの力石隆広さん(中央)が見守る中、練習する生徒ら=昨年11月、埼玉県戸田市立新曽中学校

  • コーチの力石隆広さん(中央)が見守る中、練習する生徒ら=昨年11月、埼玉県戸田市立新曽中学校

 「体を真っすぐにして」「腕を動かそう」「動きを大きく」―。部活動の地域移行に向け、モデル事業を進める戸田市立新曽中学校で昨年11月の祝日、校庭で陸上部が活動していた。走る生徒の姿勢を見て、的確に技術指導をするのは川口市の陸上クラブでコーチを務める力石隆広さん。日本陸連のコーチ資格を持つ。

 この日指導を受けたのは1、2年生計47人。部員約80人のうち希望者が参加した。コーチは力石さんを含めて2人。平日に部を指導する顧問教諭は休みで不在だった。

 練習では主に走る姿勢を意識し、基礎的なトレーニングに取り組んだ。部長の男子生徒は、「いつもよりきつい練習になるかなと心配していたが、いいトレーニングを教えてもらった。技術面で専門的な指導が受けられるので良い」と歓迎する。

 「今はシーズンが終わって基礎づくりの時期。春に結果を出せるように頑張っていこう」。約2時間の練習後、コーチの力石さんは生徒を集めて目的意識を持たせるよう声をかけた。「速い生徒、強い生徒だけではない。各自がしっかりと目標を持ち、それを達成したときに周りから称賛されるようにしていきたい」と今後の展望を語る。

■企業が部活動を運営

 市から委託を受け週末の地域部活動を運営するのは、スポーツスクール事業などを展開する「リーフラス」(東京都渋谷区)。国の方針を受け、全国の自治体で中学校の部活動の事業を受託している。

 地域から指導者を募集して派遣するだけでなく、指導者を対象に体罰や暴言など不適切な指導が行われないよう研修を実施。学校と指導者の間に立ち、さまざまな事務連絡や報告も請け負う。

 同社の馬場真也上席常務執行役員は、「私たちが生徒の安全面や保険も含め、丸ごとバックアップする。指導者は指導に専念でき、子どもたちはより専門的な指導を受けられる。学校側は先生たちの業務負担を減らせる」とメリットを挙げる。

 新曽中では昨年度、陸上部の他に剣道部もモデル事業を実施。計約90人の生徒が参加した。顧問教諭が部活動を指導するのは平日のみで、土日は休める。

 板橋哲校長=当時=は、「部活をやりたい教員は指導者に登録してやればいいし、子育てや家庭がある人はそちらを優先すればいい。その結果として教員の負担が減ればいい」と期待を寄せた。

■活動場所の確保に課題

 一方、事業を進める中で課題も見つかった。市教委によると、活動場所として学校に隣接する市スポーツセンターの陸上トラックを使ってきたが、一般の利用者から大人数での使用にクレームがあったという。

 市教委は「陸上部は大所帯。できれば貸し切りで使いたいが、そうすると一般の人が利用できない。調整が難しい」と悩む。校庭の使用はサッカー部や野球部と重なる。

 将来、地域移行を拡大するには、活動場所の確保が課題になるという。市教委は「地域の理解が進まないと、例えば学校外の体育館やテニスコートを優先的に使うことはできない」と、学校と地域が連携する必要性を指摘する。

 市は昨年度のモデル事業を検証し、本年度は対象の部活動を拡大する方向で準備を進めている。市教委は「1年目でノウハウを整えられた。本年度も事業を継続していきたい」としている。

 教員への負担、少子化、勝利至上主義など課題が挙げられる中学校の部活動。文科省は地域への移行を自治体に求めていたが、昨年末、方針を転換し、2023年度から3年という期限を撤回した。県内ではこれまでに戸田市、白岡市などが地域移行に向けたモデル事業を開始したが、課題が多く、戸惑いが広がっていた。中学校の部活動で今、何が起きているのか。現場を取材し、関係者に話を聞いた。

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