埼玉新聞

 

“魔のカーブ”で事故頻発…「環状交差点」に生まれ変わり安全 じつは埼玉5カ所のみ、すぐ増やせぬ理由が

  • 環状交差点を走行する車=羽生市須影

    環状交差点を走行する車=羽生市須影

  • 環状交差点を走行する車=羽生市須影

 ドーナツのような形をした環道を中心に道路が交わる環状交差点(ラウンドアバウト)は、欧米を中心に多数の国で導入されている。警察庁によると、全国に155カ所、埼玉県内では入間市、毛呂山町、日高市、羽生市、寄居町の5市町に各1カ所整備されている(3月末時点)。車の流れがスムーズで安全性が高く、導入している自治体の住民からは「もっと増やしてほしい」という声も。ただ、交通量が多いと渋滞が発生しやすく、整備にある程度の広さの用地を要するなどの理由から、普及は進んでいない。

 「以前は信号や歩道もない直角カーブで、『魔のカーブ』と呼ばれていた」。羽生市須影に、道路改良を目的に3本の道路が交わる環状交差点が整備されたのは2017年3月。地元の60代男性は見慣れない形状の交差点に戸惑いもあったが、「渋滞せず買い物にも行きやすくなったし安全」と、生活道路として利用している。

 信号機のない環状交差点は通行が停滞せず、車両も徐行のため重傷事故の発生を軽減できる。県警交通総務課によると、県内の環状交差点では21、22年の2年間、人身事故は発生していない。

 羽生市建設課によると、改良前の道路は直角カーブに狭い道路が別地点で2本合流し、車両同士や民家の塀への衝突事故などが多発していた。停止線や信号機の設置も含めて検討したが、近隣で07年にショッピングモールがオープンし、狭い道路の交通量も増えたため、どちらに停止線を引くかが課題に。「渋滞が起きたら家から出られなくなる」「止まっている車のヘッドライトがまぶしい」といった周辺住民にも配慮し、環状交差点の導入を決めた。

 ドライバーの反応は上々で、「ほかの道路にも導入してほしい」との要望も寄せられているが、特殊な形状に起因するデメリットもある。

 県県土整備政策課は環状交差点について「(5本以上の道路が集まる多差路では)合流しやすいという利点はある」としつつ、「交通量が増えると、機能が低下し渋滞が懸念される」と指摘する。そのため幹線道路など交通量が多い道路には向いていない。整備にある程度の広さを要するのも難点で、羽生市も用地の関係から増設する予定はないと説明する。

 また、県内で5カ所と普及が進んでいないため、初めて目にするドライバーの中には戸惑う人もいる。羽生市では導入に合わせて、周辺住民約15人に3Dシミュレーターを使って利用法について説明。付近の小学校では校庭に実寸サイズの環状交差点を描き、車を走らせながら通行体験会を実施。案内板も設置するなど啓発活動に力を入れた。

 地元の20代女性は「車に乗らない子どもたちにも車の動きをしっかりと学んでもらえたらより安全だと思う。登下校で通る子どもたちもいると思うが、環状交差点が誰にとっても優しい交差点になれば」と話していた。

■環状交差点(ラウンドアバウト)

 2014年9月に施行された改正道路交通法に基づき、法律的に整備された。環道を通行する車両が優先となり、右側から進行する車両に注意して交差点内に進入。車両は中央島に沿って時計回りに一方通行し、退出時は左のウインカーを出す。他県では宮城県で28カ所設置され、うち仙台市が12カ所と全国の自治体で最も多い。
 

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