埼玉新聞

 

本当のことを教えて…熊谷6人殺害、きょう国賠の控訴審判決 妻子3人奪われた男性「判決、自分の耳で」

  • 妻の美和子さんらが写った写真のアルバムを見つめる加藤裕希さん=26日午後、埼玉県熊谷市

    妻の美和子さんらが写った写真のアルバムを見つめる加藤裕希さん=26日午後、埼玉県熊谷市

  • 妻の美和子さんらが写った写真のアルバムを見つめる加藤裕希さん=26日午後、埼玉県熊谷市

 埼玉県熊谷市で2015年9月に男女6人が殺害された事件で、当時の県警の対応に不備があったとして、ペルー国籍の男=強盗殺人罪などで無期懲役=に妻子3人を殺害された遺族の加藤裕希さん(50)が県(県警)を相手取り慰謝料などを求めた国家賠償請求訴訟控訴審の判決が27日、東京高裁で言い渡される。加藤さんは判決を前日に控えた26日、埼玉新聞の取材に「法廷がトラウマ(心的外傷)になるほど絶望してきた7年半だった。本当のことを教えてほしい」と胸の内を語った。

 加藤さんらが県警の不備として指摘しているのは、同月14日に起きた殺人事件の参考人として全国手配された男が、前日の13日に熊谷署に任意同行されたのち、同署から行方をくらませていたことを県警が周辺住民などに知らせなかったことだ。

 その事実を県警が発表したのは、妻の加藤美和子さん=当時(41)、長女美咲さん=同(10)、次女春花さん=同(7)=が16日に殺害され、男が確保された後だった。「(県警は)男が署から立ち去っていたことを隠したかったのではないか」という疑念を当初から抱き続けている。

 加藤さんは、情報提供しなかったことは警察権の不行使であり、違法であるとして慰謝料などを求め県(県警)を相手取り18年9月に提訴。しかし昨年4月に行われたさいたま地裁判決は「県警に情報提供の義務があったと認められない」と退けた。さらに、加藤さんの妻らに危険が迫っていたとは認められないことや情報提供を行うことで事件が回避できたかは「疑問である」とした。

 一審判決から約1年2カ月。昨年10月からは同高裁での控訴審が始まったが、その直後の年末から今年初めにかけて、心身ともに疲労がピークに達し、仕事も休職せざるを得ない状況になった。これまでは自分の感情を出さずに毅然(きぜん)と闘ってきた。しかし今は「司法への怒りや高裁判決への不安などが入り交じって心の余裕がなくなった」と心境を吐露する。

 2カ月ほど前、事件当時近隣に住んでいた女性からツイッター経由で「事件前後に付近で男に似た不審者が自転車に乗っているのを見た」との連絡を受けた。女性は「当時不審者が逃走していることを知っていれば通報していた」と話したという。悔しさが込み上げた瞬間だった。

 「心身ともに疲弊して法廷に立つことがつらいが、自分の耳で判決内容を聞こうと思う。県警の中でどのようなやりとりがされた結果の行動なのか、そこが一番知りたい」と訴えた。

■熊谷6人殺害事件

 2015年9月14~16日、熊谷市内で小学生姉妹ら6人が相次いで殺害される事件が発生。前日に熊谷署から走り去ったペルー国籍の男が殺人などの容疑で逮捕、起訴された。刑事裁判で一審さいたま地裁は被告の完全責任能力を認定し死刑判決。二審東京高裁は責任能力は限定的として一審判決を破棄し無期懲役を言い渡した。東京高検は適法な上告理由を見いだせず上告を断念。最高裁が20年9月、被告側の上告を棄却し判決が確定した。

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