<ジモトピア>漫画の表紙飾る駅舎、歴史感じる寺社やお店も 今秋あの映画で「鍵」に おすすめの行田散策
落ち着いた市街地が周囲に広がる秩父鉄道東行田駅。線路の北には木々の一団が見える。東には県道佐野行田線が南北に走り、その踏切の南側には店が立ち並ぶ。駅舎は、埼玉県行田市を舞台にした漫画「埼玉の女子高生ってどう思いますか?」(渡邉ポポ作、新潮社刊)の第1巻表紙に描かれたことでも知られ、平屋の1枚屋根にぶら下がる大きな駅名看板が印象的だ。
同駅は昨年春、IC乗車券導入に伴い無人駅に。駅前広場から改札口を入ればプラットホームに進めるので動線は極めてシンプル。県立進修館高校の最寄り駅で、朝は多くの高校生でにぎわう。
踏切を渡ると、左手に長久寺がある。文明年間(1469~1487年)に忍城主成田顕泰が城の鬼門鎮護のために武運長久を祈願して建立したという。駅から見えた木々の一団はここだったのだ。緑あふれた境内を歩くとすがすがしい。優美な本堂の前には、樹齢300年以上とされる大きなイチョウが枝を広げている。
県道に戻りほぼ北隣にある久伊豆神社へ向かう。長久寺と同じく、成田顕泰が鬼門の守護神として文明年間に創建したと伝えられている。境内には藤棚があり、今は花こそ咲いていないが葉が青々と茂っている。緑のトンネルを抜けると本殿の正面に出る。社務所の窓には、宮司が掲げたメッセージが並ぶ。「頭に浮かぶことはできること できないことは浮かばない」。困難に立ち向かい頑張る人たちへの応援歌だ。
次に県道を南下して駅の反対方向へ歩く。2分ほど歩いた交差点からは、西に大きな切妻屋根を冠した歴史薫る横田酒造の建物が見える。1805(文化2)年創業。近江商人の横田庄右衛門が良い水を求めてこの地に造り酒屋を開いた。酒銘「日本橋」は、「初心忘るべからず」の思いを込め、自らの修行の地江戸日本橋から名付けたという。全国新酒鑑評会での金賞受賞は通算24回。「近江商人三方よしの教えを守ってきました」と横田保良社長は語る。
その交差点から東へ。住宅街を3分ほど歩くと、武州庵にたどり着いた。1975(昭和50)年創業。手打ちのそばやうどんが楽しめ、丼物などメニューは豊富。夏の活力にと冷やしスタミナうどんを選んだ。豚の生姜焼きと生野菜が添えられ、つけ汁でいただくうどんは歯応えと喉越しがとても良い。壁に並ぶ常連客からの色紙の1枚にこうあった。「二代目が 親の背中を 追越す日」。厨房(ちゅうぼう)を見やりながら目頭が熱くなった。
【メモ】武州庵(電話048・553・2127)。午前11時~午後2時、午後5時~同7時半、月曜休み。