力を入れるべきは新築?空き家?雇用? 旧中学校の校庭の宅地化で反発、戸惑い 小鹿野町「慎重に計画」
埼玉県小鹿野町が推進する新たな移住定住施策について、一部町民から戸惑いと反発の声が上がっている。町は、廃校した旧町立長若中学校(同町般若)の校庭を住宅用地に開発し、若者の転入促進や転出抑制を図る方針だが、説明会に参加した町民は「町内の雇用活性化や、空き家の有効活用の方に力を入れるべき」などと指摘する。同施策の整備事業費1030万円を盛り込んだ本年度一般会計当初予算は、町議会3月定例会で可決しており、町は年内に宅地化に向けた調査・測量を進める予定。町民の声が、これからスケジュールなどを策定する整備計画にどう反映されるのかが注目される。
旧長若中は2016年に閉校。同地域は、鉄道路線がない町の最寄り駅となる秩父駅(西武鉄道、秩父鉄道)に最も近く、国道140号長尾根バイパスなどの基幹道路整備も今後計画されている。
先月、町と長若地域住民との意見交換会が同校体育館で行われ、町民約20人が参加。同校の校庭約1万平方メートルに、子育て世帯向けの宅地分譲や賃貸住宅を建設。25年4月に閉校が決まっている同中学校向かいの町立長若小学校の校庭なども、将来的に宅地分譲増設などで利活用する計画について、同町まちづくり観光課が解説した。
意見交換会の参加者の一部は、「大都市圏へのアクセス向上に目を向けるのではなく、町内の雇用創出に力を入れて、移住定住促進につなげてほしい」「新築を購入できる若者は限られている。秩父地域で増え続けている空き家を有効活用した施策にもっと予算を充ててほしい」など、宅地化反対の声を上げた。
町民男性(79)は、毎年11月に同中学校グラウンドで開催している特産品などを販売する「長若休養村まつり」が実施できなくなることを不安視し、「今や30年以上続く地域の大切な交流の場。宅地化をもう一度見直し、みんなが納得できる案を考えてほしい」と訴えた。
町職員は「町内の空き家対策も本年度から本格的に進めている。今回の政策は、空き公共用地などを有効活用した、定住・生活拠点整備が目的で、住宅家賃補助や町内業者施工優遇など、財政面での支援を検討している」と説明し、参加者に理解を求めた。
同町の6月1日時点の人口は1万429人。5年間に千人の割合で減少が続き、30年には9千人を下回る見込み。出生数も01年の115人以降、減少傾向にあり、ここ数年は約30人ペースとなっている。
森真太郎町長は意見交換会で「若者が家庭を持ちやすい環境をつくることが町の最重要課題。移住定住施策は、皆さんと考えながら進めていくことが大事なので、座談会なども開き、慎重に計画を練り上げていきたい」と話した。
町は9月に、住民の意向を反映した長若地域の整備基本計画案の策定と、説明会を開催する予定。
■メモ
旧長若中は1988年に建築され、現在も残る町内の廃校中学3校の中で最も新しい公共地。同校の校舎は、昨年から都内の民間企業(中古パソコンのリユース会社リングロー、東京都豊島区)に貸し出し、地域交流の場を創出する「長若集学校」として利活用されている。9月に住民の意向を反映した長若地域の整備基本計画書(案)の策定と説明会、10月に長若地域(旧中学校エリア)整備基本計画の策定、11月に基本計画に基づく調査・測量を実施。