吉田鋼太郎さん、シェークピア劇に自由な挑戦 現代人の心に響く舞台を、「ヘンリー八世」14日開幕
14日からさいたま市中央区の彩の国さいたま芸術劇場で開幕する「ヘンリー八世」。シェークピア37戯曲の完全上演を目指す「彩の国シェイクスピア・シリーズ」の第35弾。故蜷川幸雄さんの遺志を受け継ぎ、2016年に同シリーズ2代目芸術監督に就任、演出を務めるのが吉田鋼太郎さん(61)だ。「みんなが楽しめるシェークスピア劇に」と、現代人の心に響く舞台を生み出そうと、永遠の古典に挑んでいる。
1月中旬、芸術劇場で行われた英国王ヘンリー八世と運命の相手アン・ブリンが出会う晩餐(ばんさん)会のシーンの稽古。俳優たちの演技を見た吉田さんが声を張り上げた。「これは晩餐会じゃない、おやじたちの合コンなんだ!」。吉田さんの演出により、当初はかしこまった雰囲気だった場面が、下心を隠さない男たちがはしゃぎ、貴婦人を追い掛け回すお祭り騒ぎの場面に変わる。王侯貴族たちが酔っぱらった昭和のおやじに見え、シェークスピアが急に身近に感じられる。
絶対的権力を持ち、王妃との結婚を無効にしようとする主人公ヘンリー八世を演じるのは阿部寛さん(55)。吉田さんが演じるウルジー枢機卿は宮廷で陰謀を巡らす嫌われ者。「悪い人にも理由がある、みたいに演じることもできる。でも、ウルジーは権力欲、金銭欲、性欲全てが悪魔のような人」と、思い切り悪役に徹するつもりだ。
歴史劇「ヘンリー八世」は、戦闘シーンのない、やや地味と言われる作品。吉田さんは「だからこそ、挑戦しがいがある。特にシェークスピアは敷居が高い、と構えてしまう人たちに向けどう仕上げていくかが問われる」と意欲を燃やす。
「ヘンリー八世」では浪費で税金が上がったり、権力者が立場を利用して金もうけする状況が描かれており、吉田さんは「今の日本と似ている」と指摘。中世の優美な服装ではなく、背広にシルクハット、ステッキと英国紳士風の衣装にしたのは、「昔の出来事」というハードルを取り払い、現代を生きる自分に引き寄せて見てほしいとの思いからだ。
吉田さんは18歳の頃から約10年間、シェークスピアの芝居しかやらなかった時期があったという。いまだに中毒のように引き付けられる永遠の古典の魅力を、「自由な挑戦ができるから」と語る。シェークスピアの戯曲は、例えば「どうしてあなたはロミオなの?」とせりふは書いてあっても詳しい心情表現や動きは書かれていない。「このせりふをどう演じてもいいわけですよ。その時の経験や環境、年齢によって読み方や演じ方が変わる。この面白さはシェークスピアにしかない」と語る。
04年、蜷川さん演出の「タイタス・アンドロニカス」に出演して以来、同シリーズの常連。そのため芸術劇場周辺になじみの居酒屋があり、先月、店長から誕生日ケーキをプレゼントされたという。吉田さんは「地元の愛に包まれています」と目を細めた。