埼玉新聞

 

珍しい「サツマイモ抱えた狛犬」、所沢・神明社に 聖火台制作の鈴木文吾さん監修 市外から人々「見たい」

  • サツマイモを抱えた狛犬=所沢市中富の神明社

 旧国立競技場の聖火台制作者として知られる、鋳物師の故鈴木文吾さん(埼玉県川口市)が監修したサツマイモ型の「なでいも」と、サツマイモを抱えた狛犬が、所沢市中富の三富・富岡総鎮守「神明社」に奉納されている。2020年東京五輪・パラリンピック開催に向け、前回の1964年大会の回顧がされる中、鈴木さんが一風変わったこの2作品に携わっていたことはあまり知られていない。

■サツマイモの産地

 なでいもと狛犬は同社の境内、「甘藷乃神(いものかみ)」の社の前にある。

 この地域は「川越いも」の名で有名なサツマイモの産地。甘藷乃神はサツマイモの普及を図った学者、青木昆陽と、南永井村(現所沢市南永井)の名主で1751年に川越地域で初めてサツマイモを試作した吉田弥右衛門(よしだやえもん)を祭り、顕彰や先人への感謝を込めて建立された。

 鈴木さんへのなでいもと狛犬の制作依頼は、県神社庁の学芸員から鈴木さんを紹介されたのがきっかけだった。鈴木さんが残した作品は天水鉢(てんすいばち)や梵鐘(ぼんしょう)など相当数に上っていて、依頼も快諾だったという。神明社の宮司で三芳町長の林伊佐雄さんは「文吾先生にお願いできるのはとても光栄で、神社にとっても誉れ高いと思った」と振り返る。

 鈴木さんは2006年5月、神明社を訪れている。神社の歴史や甘藷乃神の趣旨を聞き、神社にもともとある狛犬の確認などをしたという。

■師弟関係

 実際の制作は、鋳物技術を学ぶ川口鋳金工芸研究会が行った。鈴木さんは同会の講師を務めていて、まさに師弟関係だった。

 会のメンバーは師匠からの「やってみてはどうだろうか」という話を受け入れ、原型作りなどの各工程を手分けして担当し、完成させた。なでいもの鋳型作りを担当した川口市の岸洋さんは「『先生の名に恥じないものを』と、それぞれ力を合わせた」と懐かしむ。

 06年11月23日、鈴木さんも参列して遷座祭が開かれ、甘藷乃神の社、なでいも、狛犬がお披露目された。

 なでいもは、なでると無病息災につながるとされる。その珍しい形をひと目見ようと市外からも参拝者が訪れている。

 狛犬はにらみつけたような表情をしたものが多いが、「この狛犬はどこか優しく、親しみのある顔」と林さん。「文吾先生のお気持ちが表れている気がする」と話していた。

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