浦和高生ら悲しみ オアシスだった中華店「仙龍」全焼…笑顔の女性店主ら不明 花束を手向ける人の姿絶えず
さいたま市浦和区の中華料理店「仙龍」が全焼し2人の遺体が見つかった火災で、同店を慕ってきた近くの県立浦和高校の生徒や卒業生らに悲しみが広がっている。火災後に行方不明となっている店主の伊藤みや子さん(88)は「仙龍のおばちゃん」と親しまれ、店先には花束を手向ける人の姿が絶えない。伊藤さんの長女は「母の偉大さを感じている」と訪れた人たちに謝意を伝えている。
仙龍は1959年に伊藤さんが1人で開業。当初はラーメンが主だったが、浦高生たちが集まり出すと定食など品数を増やし、低価格でボリューム満点の料理を提供するようになった。「いらっしゃい」と威勢のいい声で客を迎える伊藤さん。厨房(ちゅうぼう)では弟の工藤松夫さん(73)が黙々と調理に徹していた。
同校OBで体育教諭も務めていた柴田宗宏さん(73)は62年からの常連。「なりふり構わず、いつもみんなに大盛りを提供していた。経営は大丈夫かと、少し心配もあった」と振り返る。
仙龍の2人は運動部員が校内合宿を行う際に食事係を担当。伊藤さんは毎年11月の恒例行事「強歩大会」に顔を出し「上位入賞者にはご褒美を出すからね」とエールを送っていた。3月末で同校長を退任するOBの小島克也さん(60)は「浦高の教員、生徒、OBの心のオアシスだった。2人は浦高職員の一員のような存在」と感謝した。
24日に修了式が行われ、生徒らが別れを惜しんだ。4月から同校2年の清本未知さん(16)は「浦高生なら誰でも一度は通ったお店。冗談で笑わせてくれるおばちゃんが印象的だった」と惜しむ。
伊藤さんの長女石川弘子さんは時間の許す限り店の前に立ち、訪れた一人ずつに礼を伝えている。「高校を卒業しても、事あるごとにみんなが店を訪ねてきてくれた。これだけ多くの方々が集まってくれて2人も喜んでいる。長年店を支えてくれた皆さんに感謝したい」と話した。
火災は16日午前3時半ごろ発生。木造2階建て店舗兼住宅が全焼し、2人の遺体が見つかった。浦和署は伊藤さんと工藤さんとみて身元確認を進めている。店舗と住宅の間にあった冷蔵庫付近の燃え方が激しく、火元の可能性があるという。