「幻のお店」これからも…羽生で愛され70年超「モア松屋」のアイス 閉店の危機越え、縁つなぎ継承
創業70年を超える埼玉県羽生市中央の喫茶店「モア松屋」。変わらない製法で作られる人気のアイスは、地域の子どもたちから愛されている。コロナ禍で、一時閉店の危機に直面したが、地域の声を後押しに「懐かしい味を残そう」と、現社長の別井勝さん(47)が店を継承した。他店では味わうことのできないシャリッとした特徴的な食感と、ジェラートのような口溶けを忘れられない人も多く、思い出の味として親しまれている。
■閉店の危機
元は牛乳販売所を営み、1951年の創業時、店舗の裏には牧場があったという同店。別井さんによると、アイス販売のきっかけは、店の創業者が冬に余った牛乳に砂糖を入れ、外に袋でつるしたところ「アイスみたいでおいしい」と子どもたちが喜んで食べたこと。当時は、近所の子どもたちが病院や美容院などへの帰りに食べる「ご褒美」として喜ばれたという。
店はかつて、5月のゴールデンウイークから10月の羽生市民運動会の日まで夏季限定で営業。地元では「幻のお店」と呼ばれ、開店を心待ちにするファンも。しかし2020年、新型コロナウイルスの感染拡大によって閉店の危機に直面、心配の声が上がっていた。
■古里の味を残す
「モア松屋」の先代、長谷川節子さんから事業を継承した現社長、別井勝さん(47)は、同市内で牛乳販売店を営む。緊急事態宣言以降、配達中に「どうやらお店が開かないらしい」「コロナの影響で牛乳が入ってこないからでは」と、モア松屋のうわさを耳にした。
地域に愛される店を残そうと、それまで面識はなかった長谷川さんに「同じ牛乳屋さん同士助け合いができる。牛乳なら分けることもできると思う。お手伝いしたいから続けてほしい」と申し出た。
■愛される店を
別井さんは、準備期間を経て21年に店を継承。「お客さんを待つ商売は予想がつかない分、大変だよ。それでもね、楽しんでやりなさい」。後を託した長谷川さんは23年8月1日に亡くなった。長谷川さんの人柄に親しみ、訪れる客も多く、店の魅力の一つだった。
「小さい子でも買えるように」と手頃な価格設定を大切に、保存料や卵、生クリームを使用せず、体にも優しい。地元の男性(54)は「昔から慣れ親しんだ味。お店が続いていてうれしく、ありがたい」と話す。
別井さんは語る。「小さい頃から食べて大人になった時、『この味なんだよな』って思い出して話をしてもらえたら。思い出の味と場所の提供をしたい。地域の人から『昔から変わらない味だね』『忘れられない味』と懐かしむ声をとてもうれしく思うから」
東武伊勢崎線羽生駅東口から徒歩約9分。問い合わせは(電話048・580・5813)、メール(biz@more-matsuya.com)。不定休のため営業時間、休業日は同店ホームページへ。