なんで私が難病に…絶望の日々を変えた「絵」 草加の多賀谷さん美術コン入賞 新たな夢と難病と人生歩む
関節リウマチやアトピー性皮膚炎などのほか、クローン病など難病も引き起こす「免疫介在性炎症性疾患」の患者を対象とした美術コンクール「アッヴィ アートプロジェクト」で、埼玉県草加市吉町の多賀谷裕子さん(41)の絵画が佳作を受賞した。応募総数112点の中から入賞10点の一つに選ばれ、多賀谷さんは「絵は私にとって命。難病と向き合い生きていきたい」と話している。
多賀谷さんは9年前、全身に激痛が襲い起き上がれず、病院で検査したところ、国指定難病「全身性エリテマトーデス」と診断された。発熱や倦怠(けんたい)感、口内炎、関節痛などが主な症状で、全身の臓器にも障害をもたらす。詳しい原因は解明されていない。
「なんで私が難病に」。医師の宣告を受けて絶望した多賀谷さん。悩み苦しみ、生きる希望を模索する中、ふとした時に幼少期から絵が好きだったことを思い出した。落書きしてても、食事を忘れるほど夢中になり、自分自身と向き合える大切な時間。それが絵を描いている時だった。
入院中の病室や退院後の自宅で空き時間にこつこつと描き、昨年秋の「草加市美術展」に人生で初めて応募。洋画の部で市議会議長賞を受賞した。
人生2回目となる今回のコンクールに挑戦したのは昨年11月。下書きに2日間、色塗りに3~4日間かけ約1週間で仕上げた。
受賞作品は、多賀谷さんと同じように難病で苦しむ人物を中心に描いた。天から降り注ぐ希望に向かい、手を伸ばしてつかみ取ろうとしている場面をイメージ。極細ペンと水彩絵の具で繊細なタッチを表現し、人物の周りに無数のチョウをデザインした。タイトルは「途絶えることの無い陰と陽」。「人生は良い事ばかりでなく悪い時もある。だからと言って悪いことばかり続かない」。そんな思いを込めた。
同コンクールは、新薬の研究開発などに世界規模で取り組むアッヴィ合同会社(東京都港区)が主催。10歳から88歳まで全国の患者から112点の応募があり、最優秀賞と優秀賞1点ずつ、審査員賞3点、佳作5点の計10作品が入賞した。
今年5月に佳作の一報を受けた瞬間、多賀谷さんは「うれしさよりも(最優秀賞を獲得できず)悔しさの方が大きかった」と苦笑い。より上を目指す創作意欲が湧いてきた。
難病と向き合うことで、多賀谷さんに新たな気持ちも芽生え始めた。病を憎むのではなく、自分の一部だと自覚する気持ち。「一生治らないのかと泣いて泣いて悩んだ。しかし後悔しても始まらない。だったらこの難病と仲良くしよう。うまく付き合い、人生を歩みたい」。
現在は体調と相談しながら、新作の準備も進めている。当面の目標は埼玉県美術展覧会への出展。そして最終目標は画家になること。「世界中で認められる絵を生み出したい」と、大きな夢に向かって目を輝かせる。