55年の歴史に幕…JR蕨駅前のレコード店「ミヤコ」閉店 ギター1日3本売れた時代も 営んだ夫婦、新人歌手におにぎり作って一緒に売り込んだ日々 じつは夫婦、今後さらに前へ
JR蕨駅西口前で1968(昭和43)年に若い夫婦2人で開業したレコード店「ミヤコ」が20日、店じまいし、55年の歴史に幕を閉じた。多くの新人歌手を親代わりとして支えてきた。その中には、水森かおりや市川由紀乃などもいた。夫妻は「いい時代だった。町全体に元気があふれていた」と振り返る。今後は川口市内の自宅を本拠に演歌などの通信販売を続けるという。「全国の演歌ファンのために再出発します。演歌の灯は消さない」と夫妻は前を向く。
■いい時代だった
夫妻は松下良夫さん(82)と佳代子さん(80)。良夫さんは石川県七尾市出身。中学を卒業し、大阪・心斎橋の大手レコード店ミヤコに就職。60(同35)年に東京・銀座の東京支社の開業と同時に同支社に転勤した。大阪時代に知り合った同郷の輪島市出身の佳代子さんと67(同42)年、東京で結婚。その翌年、埼玉支店として開業したのが蕨駅前の店だった。ここで娘2人を育てた。
「その時に新しく建ったビルで、そのままずっとやってきた。初めの頃はレコードのほかにギターなどの楽器もずらりと並べて売った」と良夫さん。「60年代は、若い人が買いに来て、ギターが日に2、3本売れた時代もあった」と佳代子さんは新婚時代を懐かしむ。
「いい時代だった。全てが上り坂。世の中に元気があった。近くで芝園団地が間もなく出来上がるというころ。町全体に活気があった」と良夫さん。時代の力を感じたという。
■気が付いたら55年
「レコードもクラシックから演歌までいろいろ売った。その後、カセットからCDへ、音楽業界は激変した」と良夫さん。この30年間は演歌に絞って力を入れている。特に、新人歌手の応援に一生懸命だった。
「お父さんが運転して、私が新人歌手の分もおにぎりを作って、売り込みに県内のスナックなどを回った。一方で、新曲発表会が都内で週に2、3回。そのたびに私が東京へ行った」と佳代子さん。
「忙しかった。脇目も振らずに商売、商売。やっと暇ができた。気が付いたら55年もやっていた」と佳代子さん。「かつての新人たちが、閉店を泣いて惜しんでくれたのが救いだね」と良夫さん。
「うちの店で新曲のキャンペーンデビューして、その後にNHKの紅白に出た子もいる。わが子と一緒にかわいい」と佳代子さんは話した。