救える命、救いたい…学校で死亡の小6少女の思い、全国へ いつでも使えるAED、進学予定だった中学校に設置
埼玉県さいたま市立日進小学校6年の桐田明日香さん=当時(11)=は2011年9月、駅伝の練習中に倒れて死亡した。自動体外式除細動器(AED)が、学校現場で活用されなかった教訓を踏まえ、翌年9月30日の命日に、救命マニュアル「ASUKAモデル」が策定される。悲しい事故から12年後の30日、進学する予定だった市立日進中学校で、屋外に設置するAEDと収納ボックスの贈呈式が行われた。母親の寿子さん(52)は「天国にいる明日香の笑顔が見えるようです。救える命は救いたい。明日香の思いが全国へ世界へ伝わることを心から願います」と話した。
贈呈式では最初に、出席者全員が黙とうして、明日香さんの冥福を祈った。寄贈した「小山本家酒造」「世界鷹小山家グループ」(同市西区)の小山景市会長が、清水勇人市長に目録を手渡し、感謝状を贈られた。AEDのセット58台は2千万円相当。本年度中に市立中学校全58校の正門などに設置され、24時間の救命措置が可能になる。
同社創業215周年を迎え、小山会長は「少しでも地域のお役に立てればと思い、寄贈を決めました。中学生の皆さんはもちろん、近所の皆さんも緊急の場合はお使いいただきい」とあいさつ。清水市長は小山会長らに感謝の言葉を述べた上で、「さいたま市の安心安全が間違いなく高まる」と話し、寿子さんに「一人でも多くの命を救えるようにしていきたい」と語りかけた。
贈呈式には、明日香さんの弟で市立大宮北高校2年の真さん(17)、日進小5年の悠さん(10)も出席。真さんは小学3年の頃、自宅周辺を調査してAEDマップを作成した。屋外で24時間使えるAEDが未整備だったことが分かったという。
寿子さんは「長男が地域を調べて、必要性を再確認していた。誰もが24時間、誰もが分かる場所に、AEDが設置されることは、非常に意味がある。さいたま市を起点に全国へ広げていきたい」。一方で、「AEDは飾るものではなくて、使うもの。多くの人が使えるように啓発を続けていきたい」と目標を語った。
明日香さんは、家族も友達も先生も学校も大好きだったという。寿子さんは中学校正門前のAED設置により、「命を守ることに、さらなる大きな一歩につながった。明日香がほっとしながら、笑顔で喜んでいると素直に感じている」と話していた。
明日香さんの家族と市教委は事故後、「悲しい事故を二度と繰り返してはならない」との思いを一つに協議を重ね、ASUKAモデルを策定した。市教委は教職員の研修を充実させ、小学5年から中学1年にかけて、AEDを使用する救命教育を実践している。
ASUKAモデル策定から10年を迎えた昨年の命日には、フォーラムを開催。毎年9月30日を「明日(あす)も 進む いのちの日」と制定し、子どもたちへの啓発活動を強化している。