電池残量3%で110番、途切れた通話…生死を分けたアプリ 埼玉県警と「ヤマレコ」が協定、地図アプリ3例目
2020年の新型コロナウイルスのまん延以降、アウトドアレジャー人気が高まり、新規登山者の遭難件数が増加傾向にある。こうした背景を踏まえ、埼玉県警は登山地図アプリを運営する「ヤマレコ」(長野県松本市)と協定を締結した。同社の遭難者情報照会システム「SAGASU(サガス)」を使えば24時間365日、アプリ利用者の現在地と行動履歴が確認でき、捜索範囲の絞り込みや迅速な救助活動に効果的だ。県警が大手地図アプリと協定を結ぶのは「コンパス」(日本山岳ガイド協会)と「ヤマップ」(福岡市)に続き3例目。
■山岳遭難最多ペース
県警地域総務課によると、今年1~9月の県内の山岳遭難は62件71人で前年同期に比べて5件5人増え、過去最多件数となった昨年1年間の87件を上回るペースで推移している。死者は9人減の3人。遭難件数62件の原因別では、道迷いが16件で最多。滑落と転倒が15件ずつで並んだ。
サガスは遭難者を迅速に捜し出すことを目的とするシステム。遭難者がヤマレコを使用していた場合、携帯電話番号などを入力すれば遭難者の登山計画や位置、軌跡情報が分かる。これまでは遭難者の現在地などの情報を同社に個別に問い合わせていたが、県警がサガスを使った照会を直接行えることで捜索活動までの時間を短縮でき、救助できる可能性を高められる。
さらに県警が山岳遭難の発生場所や状況の情報を提供。同社が公開している「山岳遭難マップ」で登山者が事前に危険箇所を把握することもでき、安全登山の普及につながる。
■両神山で救助例も
実際にヤマレコのアプリを使用していたことで救助された事例がある。
今年6月、秩父市と小鹿野町にまたがる両神山で遭難した70代男性から県警に110番があった。通報時、男性の携帯電話の電池残量は3%。詳細が分からないまま電源は切れてしまった。ただ会話の中で「ヤマレコを使用している」というやりとりがあったため、照会をかけたところ、位置情報を取得でき、無事に助けられた。男性は道に迷っていて、通報した際に説明とは全く違う場所にいたという。位置情報がなければ当日の救助は困難で、最悪のケースに陥っていた可能性もある。
同社が警察と協定を交わすのは長野、静岡、神奈川に続いて4例目。締結式で、県警の上條浩一地域部長は「登山者にとっては大変有効な機能を有していて、登山の安全安心を確保する上で大きな意義がある」と力を込めた。
同社の的場一峰社長は、利用者からアプリを使用していたことで道に迷う前に気付けたという声かけを多くもらうそうで「道迷いの防止が遭難防止の第一歩。まずはアプリを使ってみてほしい」と強調した。また、登山者へのアドバイスとして携帯電話のバッテリーを持たせるために機内モードにしている人が多い点を指摘。機内モードだと同社のサーバーに位置情報が届かず、照会をかけても現在地が分からないといい、「モバイルバッテリーを用意してほしい。それが助かる重要なポイント」と呼びかけている。