埼玉新聞

 

自らを解放、研鑽したい 越谷出身の劇団四季・石橋杏実さん、最新作「パリのアメリカ人」ヒロイン役に抜擢

  • 東京都渋谷区の東急シアターオーブ(相澤利一撮影)

  • 製作発表会でのクリストファー・ウィールドンさん(前列中央)と石橋さん(前列右端)=2018年9月3日、東京都内 撮影:荒井健

 第2幕の終盤。リズが主役を勝ち取った劇中劇のバレエ公演の場面で、リズとジェリーは幻想の中、名曲「An American in Paris」の音楽に乗り、しなやかに、そして美しくステップを刻んでいくー。1月に開幕した劇団四季の最新ミュージカル「パリのアメリカ人」で越谷市出身の石橋杏実さんがヒロインのリズ役を演じている。四季の新作を心待ちにしていた観客はカーテンコールで、ニューヒロインの誕生に惜しみない拍手を送った。 

■越谷生まれ、3歳でバレエ

 祖父母の代から越谷で、自身も越谷生まれ越谷育ち。3歳のころ姉について行った草加のバレエスタジオが、石橋さんの原点だ。母親はレッスンがある度に、車で送り迎えしてくれた。バレリーナとしてのソロ初舞台は、地元越谷のサンシティホールだった。当時を「自分の中では、バレエは第一義ではなかった」と振り返る。

 「昨日よりきょう、きょうより明日。日々技術が向上していくのは嬉しかった。ただ、バレエでなくてもよかった」

 明確な目標がないままに続けていたバレエだったが、石橋さんの運命を変える出合いが中学2年生の時、訪れることになる。

■すべては四季のために

 劇団四季との出合いは母親に連れられて観た五反田の「キャッツ」。衝撃だった。14歳の少女は四季に傾倒していった。

 「いつの日か劇団四季の舞台に立ちたい、いや絶対立つ、と心に決めた」

 その思いはガーシュウィン楽曲の傑作「クレイジー・フォー・ユー」を観て確信に変わる。小さいころから続けてきたバレエを活かそうと考えた四季入団への近道は3つ。コンクールで賞を獲る、バレエ団に入団する、そして海外留学。

 「まだ入団すらしていないのに、四季で活躍する自分をいつも夢想していた。高2になるころには留学を視野に具体的に動き始めました。すべては四季に入るためです」

 石橋さんが選んだ国はイギリス。ロンドンの「セントラルスクール・オブ・バレエ」でバレエの基礎からすべてを学ぶ。スキルの高い猛者(もさ)が世界から集まっていた。

■帰国、念願の四季へ入団

 異国で3年間のバレエ漬けの生活が終わろうとしていた2015年、一時帰国して受けたオーディションに合格したという吉報が届く。夢にまで見た四季への扉が開かれた。

 「入団初日に明日から『オペラ座の怪人』の稽古に入っていただきますと言われて。本当に驚きました」

 3カ月後に初舞台。その後は得意のダンスを活かしたアンサンブルで、人気作品「ウィキッド」「ライオンキング」にも出演。着実にキャリアを積み重ねていった。

■新作ヒロイン役候補に

 四季が報道陣に「パリのアメリカ人」の製作発表を行った2018年9月からさかのぼること7カ月前。オーディションでは、初めはアンサンブルで受験したが、ヒロインがバレエダンサーということもあり、劇団の勧めでリズ役を受けることに。翌月オリジナルのクリエイティブスタッフが来日し、彼らも加わった本選でのダンス、歌、せりふ審査を経て大役を射止めた。舞台では稽古場や劇中劇のバレエシーンなどトゥシューズで踊るシーンも数多い。演出・振付担当のクリストファー・ウィールドン氏は彼女のバレエ技術に太鼓判を押した。

「クリスさんは足先の使い方に特にこだわっていました。もっとこうして、こうやるんだよと手本を自ら示してくれました。『Feet! Feet!』と稽古場で数えきれないほど言われましたね」

 技術の高さももちろんのこと、自分の身体をいかにコントロールするか。細部にまで行きわたる美しさを常に求められた。

自らを解放、研鑽したい 越谷出身の劇団四季・石橋杏実さん、最新作「パリのアメリカ人」ヒロイン役に抜擢

■初日公演を迎えて

 「『パリのアメリカ人』のダンス、バレエの難易度は(見た目にはわからないが)極めて高く、急きょ踊りのパートナーを変えてくださいと言われたら『できません!』って言ってしまいそうなくらい、ふたりでひとつの振り付けになっていることが多いです」

 沸きあがる個々の感情の流れを表すかのように「流れるように止まらない」のが特徴だという。

 稽古を重ねて迎えた1月20日の初日公演。役名のないアンサンブルしか経験のなかった石橋さんは、リズ役で新たな一歩を舞台に刻んだ。

 「今でも課題は多いです。特にせりふと歌では、バレエやダンスを踊る時ほど、まだ自分を解放しきれていない。日々研鑽を重ねていきます」

 3月8日に千秋楽を迎える東京公演の後は、劇場を横浜へ移して夏までの公演が控えている。

 インタビューの最後に「全国公演でサンシティホールに凱旋する石橋さんを越谷市民はきっと待っています」と伝えると、きょう一番の笑顔がはじけた。

■ミュージカル「パリのアメリカ人」ストーリー

 第2次世界大戦直後のパリ。アメリカ退役軍人ジェリーは、友人の作曲家アダム、ショーマンに憧れるフランス人アンリとともに、暗い時代に別れを告げ、画家として新たな人

生を歩もうと夢見ている。ある時ジェリーは街で見かけたパリジェンヌ、リズにひと目で恋に落ちる。しかしリズはアンリの婚約者だった。恩のあるアンリと、愛するジェリーの間で揺れ動くリズ。パリが支配から自由解放へと大きな変貌を遂げ、次第に光が満ちていく中、ジェリー、アンリ、アダム、そしてリズ、夢を追いかける若者たちの恋と友情の行方は…。

【いしばし・きょうみ】

越谷市生まれ。高校卒業後、イギリス・ロンドンにバレエ留学。入団前にもイギリスのダンス公演等に出演した経験がある。2015年6月に劇団四季入団。「オペラ座の怪人」で初舞台を踏む。「ウィキッド」「ライオンキング」にも出演。2019年1月に開幕した「パリのアメリカ人」でヒロインのリズ役を演じている。

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