まさか自分の職場で…「訓練とは違う。事件だ」退避の背後で銃声 立てこもり事件の蕨郵便局、窓口など再開
「訓練とは違う。事件だ」。埼玉県蕨市の住宅街にある蕨郵便局で女性局員2人を人質に立てこもった男は約8時間後、県警に身柄を確保された。事件発生から7日で1週間。拳銃を構える男を間近で目撃していた男性局員は「自分に銃が向けられていても、おかしくはなかった」と緊迫した当時の状況を振り返る。事件を受けて休止していた窓口などの通常業務は6日午後に再開した。
事件発生は10月31日午後2時15分ごろ。無職の男(86)=戸田市新曽=が拳銃を持って立てこもり、20代と30代の女性局員2人を人質に取った。
県警は電話で説得を続け、20代局員が午後7時17分に解放され、同9時4分には30代局員が隙を見て自力で脱出した。同10時20分に県警の特殊班などが突入し、男を確保。同日、人質強要処罰法違反の疑いで男を逮捕し、2日に同容疑と建造物侵入の容疑でさいたま地検に送検した。
一時、同局から半径約400メートルの住民に避難が呼びかけられるなど騒然とした現場。男は県警の調べに対し「郵便局の人と話がしたかった」「逃げ遅れた人を人質に取った」と供述。同日の立てこもり前に起きた戸田中央総合病院への銃撃や自宅アパートの火災についても関与を認めており、県警が詳しい経緯や動機の解明を進めている。
■にらみ合い
立てこもり事件発生直前、局内には複数の職員や利用客がいた。局内で勤務中だった男性局員は「“パーン”という乾いた音で、2回ぐらい聞こえた気がする。発砲音を聞いて、悲鳴を上げていた局員もいた」と回想する。
男性は配達物を回収しようとバックヤードから窓口の中に入ると、自身の5メートルほど右横に、局員には見えない高齢の男が拳銃を構えて立っていた。腰ほどの高さのカウンターを隔てて窓口の外の方を向いていた男。落ち着いた表情で無言だった。銃口が向けられた先には「警察官のような人がいて、同様に拳銃を男に向けて、にらみ合っていた」という。
男性は最初「防犯訓練か」と思った。と同時に、周りの局員が一斉に窓口の奥に退避し始めるのを目の当たりにし「訓練とは違う。事件だ」と察知した。頭と体が状況に追い付くのに3、4秒を要したが、辺りが緊張感に包まれるのを感じ、われに返り慌ててバックヤードに戻った。銃声が聞こえたのはその直後だった。
「周りの局員は『まさか自分の職場でこんな事件が起きるとは思わなかった』と口々に言っていた。私も考えもしなかった」と驚きを隠せない。「もしかしたら自分に銃が向けられていたかもしれない。今でも思い出すと怖い」
■祭りの陰で
県警は事件現場となった3カ所の現場検証を実施。事件から3日後の3日には、郵便局前の道路に張られていた規制線は外され、路上では毎年恒例の「宿場まつり」が開催された。直前の事件がうそのように老若男女でにぎわっていたものの、同局は閉鎖されたままで、敷地内に入れないように建物の入り口などには規制線が残っており、祭り特有の陽気な雰囲気とは対照的だった。