新型コロナで3分の1に…警察署の「少年柔剣道教室」 日々の鍛錬「心と体を強く」 埼玉県警、再開に意欲
少年の健全育成を目的に、1998年4月に発足した埼玉県警の少年柔道剣道教室。非行防止対策の一環として警察署単位で署の道場を使い、実施しているが、2020年の新型コロナウイルスのまん延による中断後、生徒がいないなどの理由で再開できないままの教室も多い。一方で、活気が戻ってきた道場も見受けられる。日々の鍛錬を通じて指導者がどんなことを教え、生徒はどんなことを学んでいるのか。上尾署の少年剣道教室を取材した。
■活気ある上尾ひまわり
「よろしくお願いします」―。道場に子どもたちの大きな声が響き渡る。「上尾署ひまわり少年剣道教室」は同市内などに住む幼稚園児から中学3年生まで計55人が在籍。県警が委嘱する嘱託教室指導者5人が生徒と接し、火、木曜日の週2回、午後6時から同8時半まで稽古を積む。
競技に打ち込む以上、技を磨き、試合に勝ちたいと思うのは指導者も生徒も同じ。ただ、それが全てではない。現役の歯科医で指導歴36年の渋谷忠幸さん(82)は「強い子ばかりを強くさせるわけではない。剣道を通じて、心の豊な人間になってもらうことが目的」と断言する。
■武道の精神を大事に
指導をする上で最も大事にしているのは礼儀、作法。渋谷さんは、幼稚園児の時は整列すらできなかったが中学卒業時には一番礼儀正しくなった教え子の姿を思い浮かべ、「子どもの成長ぶりに衝撃を受けることもある」と熱を込める。叱る場合でも必ず理由を伝えて、最後は褒めるという。指導歴32年の稲子和さん(82)も「曲がった道をいかずに、真っすぐに生きていってほしい」。こんな願いを込め、愛情を持って接する。
剣道をはじめ武道の精神のあり方に「礼に始まり、礼に終わる」という言葉がある。小学1年から上尾ひまわりで心技を磨く伊奈小針中2年の篠崎翼選手(14)は「剣道のおかげで、自然と大きな声であいさつができるようになった」、上尾中央小5年の児玉悠輝選手(11)も「相手を敬う気持ちを忘れず、自分自身の心と体を一歩ずつでも強くなれるように毎回稽古に臨んでいる」と、ともに胸を張る。
■生徒ゼロの現実も
同教室は昨年7月1日に再開し、1カ月後に休止。その後、今年4月1日に本格的に再開できたが、一方で全県を見渡すと厳しい現実もある。コロナ流行以前の19年6月現在で剣道が30署、柔道が16署で稼働していたのが、今年10月末現在で剣道は10署、柔道は7署での再開にとどまる。
県警少年課によると、コロナの影響で警察署自体が感染防止のため、道場を使う術科訓練を中止したことに伴い、柔剣道教室も一時休止。その間に卒業を迎えたり、新たな生徒募集ができず柔道や剣道をやりたい子どもが他のクラブに移ったケースもある。同課の担当者は「3年間で生徒がゼロになってしまった教室もある」と現状を語る。生徒が数人残っていても再開できていない道場もあるという。
同課は「試合の勝ち負け以外にも、警察署で武道を教わり、礼儀や作法を学ぶことは意義がある」とし、“生徒募集中”のチラシを作成し、休止している署を回って働きかけるなど、コロナ前の教室数まで戻したい考えだ。
■剣道で学んだ精神生きる 教室出身の警察官も
県警交通機動隊の女性白バイ隊員の井上真衣巡査(24)=鴻巣市出身=は、上尾ひまわり少年剣道教室の出身だ。
小学1年~中学3年まで教室に通っていた井上巡査。警察の仕事をより身近に感じ「かっこいい」と憧れを抱いた。毎回の稽古を通じ、あいさつが自然と身に付いたり、相手の気持ちを考えて行動できるようになったほか、逆境にもめげない忍耐力が付いたと自負する。
普段は交通取り締まりがメインだが、剣道で学んだ「礼に始まり、礼に終わる」精神が生きていると分析する。「警察の中でも嫌われる存在だけど、違反した人の気持ちも考え、相手が嫌な思いをしないような言い方を心がけている」。違反者に接する際と切符の処理を終わった後のあいさつは欠かさないという。