息子はあなたにも寄り添った…被害医師の父と妻が意見陳述 怒り、絶望、悔しさ吐露「最大限長く刑務所に」
昨年1月、埼玉県ふじみ野市の住宅で医師の男性=当時(44)=が散弾銃で射殺されるなど訪問していた医療関係者3人が死傷した立てこもり事件で、殺人や殺人未遂の罪などに問われた、住民の無職の男(68)の裁判員裁判の論告求刑公判が28日、さいたま地裁(小池健治裁判長)で開かれた。検察側は、「殺害完遂へ強固な意志がうかがえる」などとして無期懲役を求刑。弁護側は殺意を否定し、懲役15年が相当として結審した。判決は来月12日。
◇
この日は医師の父親と妻が出廷し、意見陳述のため証言台に立った。父親は息子が10年前に在宅診療を始めてから「患者さんと家族にとって、大切な意味のある時間をつくってあげたいんだ」という信念の下、患者や家族、地域医療と向き合い続けた毎日を振り返るとともに息子を失った絶望感や怒りを語った。
患者らに寄り添うことを第一に考えていたとして、男に「息子は最後まであなたにも寄り添っていましたよね」と問いかけた。「なぜ、殺されなければならなかったのか。息子を殺された親の気持ちは言い尽くせない。激しい怒りで自分をこらえ切れなくなる」などと絶望の胸中を声を震わせながら吐露。殺意を否認し続ける男に、「今日、この場でも遅くない。真実を話して謝ってほしい」とした上で、最後に「最大限の厳罰を望みます」と訴えた。
妻は事件前日の昨年1月26日夜、帰宅した夫との会話を思い出す。患者との関係性についての悩みを打ち明けられたものの、深夜だったために長くは話せず「誠実に対応するしかないね」と返したと言い、「これが最後の会話になるとは思わなかった」と悔しさをにじませた。
男が事件前日に母親を亡くしたことに触れ「あなたも大切な人を失う悲しさを知っているはず。ただ、突然身勝手に命を奪われる気持ちが分かるでしょうか」と訴え「法の許す限り、最大限長く刑務所に入り本当の反省をしてほしい」と語気を強めた。
男は自身に語りかけられた2人の言葉に対し、終始目線を下に落として表情を変えることなく聞いていた。