バラを通して幸せに…“食用バラ”きっかけで大学中退、22歳で起業 「深谷から世界へ」女性社長の挑戦続く
さいたま市立漫画会館の「魔夜峰央原画展」(11月末に閉幕)で、話題になった香りがある。作品にちなみ、ローズフレグランスで演出した会場。鼻腔(びこう)に届く爽やかな芳香には、深谷産の「食べられるバラ」が使われているという。協力したのは食用バラの栽培、そのバラを原材料とした加工食品と化粧品の開発販売を手がける会社「ROSE LABO(ローズラボ)」(深谷市)。農業の世界に飛び込み、20代で起業した田中綾華社長(30)は「バラを通して多くの人を幸せにしたい」と話す。
渋沢栄一の銅像が立つJR深谷駅から車で約15分の場所にローズラボの農園がある。約3300平方メートルのビニールハウスでは、赤や薄ピンクのバラを水耕栽培する。中から現れたのは、トゲ防止用の手袋をはめた農作業着姿の田中さん。農薬を使わず育てているため、一枚一枚葉をめくり、虫を除去する作業が欠かせないという。収穫したつぼみは、花びらにしてクール便で各店に発送。ケーキの飾りやサラダなど用途はさまざまだ。
■バラに魅了された人生
田中さんは東京都中野区出身。子どもの頃からバラの美しさに魅了されていたと振り返る。就農のきっかけは、大学生の時に、「観賞用」と信じ込んでいたバラが「食べられる」と知ったこと。固定観念にとらわれて自分の可能性を狭めていたことに気付いた。「私の幸せはバラを仕事にすること」。大好きな花の可能性を広げるため食用バラ農家になろう―。思い切って大学を中退、大阪の農家で2年間修業した。
田中さんは2015年、22歳の時に起業。バラ栽培に適した平均気温の高さ、そして新規就農者への支援体制が整っていることに魅力を感じ、深谷市を選んだ。1年目は、苗を枯らし、取引先の開拓と苦労続き。けれども18年には、バラを使ったスキンケア用品の企画・販売を開始し、年商は1億円を超え、事業を軌道に乗せることができた。
■出荷先を失ったバラ
「ピンチでしたね」と語るのは20年のコロナ禍。飲食店自粛の影響で注文のキャンセルが相次ぎ、出荷できなくなったバラが大量発生した。危機的状況の中、田中さんは「余ったバラを使って社会のためになる商品を作ろう」と思い付く。手指の消毒もできる、ローズの香りのマスクスプレーを開発。同年夏に千本を深谷市役所に寄贈したところ、口コミで広がり、発売から7カ月間で累計販売数は2万本を突破したという。
現在、ローズラボの従業員は約20人おり、シャンプーなど20種類以上の商品を展開。「可能性を引き出す」とビールやスイーツなど他企業とのコラボにも積極的だ。深谷市小前田にある本社には大きな看板が掲げられている。明記されているのは「深谷から世界へ。バラの力をいつもあなたに」。田中さんは「深谷は第二の故郷。気温だけでなく、人も温かい。これからは『食べられるバラ』で海外に挑戦したい」と笑顔を見せた。