全国初!「摘田」の常設展示 ジオラマや体験で知る“昔の上尾” 重文指定された畑作用具なども
埼玉県上尾市の国重要有形民俗文化財「上尾の摘田(つみた)・畑作用具」が重文指定から3年を経て、ようやく常設で展示されることになった。昨年末に市自然学習館がリニューアルされ、専用のコーナーが完成した。季節ごとの摘田稲作の作業風景を再現したジオラマを鑑賞したり、用具を実際に触って体験できるようになっている。訪れた人は「昔の人が使っていた道具を大切に保存することは素晴らしいこと。見られる機会ができて良かった」と話す。市によると摘田関連の常設展示は全国でも初めて。
■摘田の歴史
現在では人口20万人を超える上尾市。かつては田が2割、畑が8割の畑作を中心にした農業地帯だった。この地域で1960年代まで行われていた伝統的な米作りが摘田だ。
市内の中分や藤波など、台地に囲まれた浅い谷底の低湿地は、田植えに適さない環境だったため、直接田に種もみをまく稲のじかまき栽培が行われるようになった。
これらの地域は起伏が激しく、谷筋に沿って田が作られているため、台地に降った雨や湧き水が土の中に染み込む。そのため場所によっては腰の辺りまで田の泥の中に潜ってしまい、牛や馬も使えず、農作業が困難を極めたという。地中の温度も低く、田植えでは稲が成長しなかったことも摘田を発展させた。また畑作優先だったため、麦の収穫時期が重なる田植えを回避したともいわれている。
■体験型の展示
展示の目玉は精巧に作られたジオラマ。1947年に撮影された航空写真と現在の中分地域の風景を基にして、文化財複製などを得意とするトリアド工房(東京・八王子市)が制作した。
模型で再現されている作業工程は田うない(稲の株を土ごと掘り起こして耕す)や田摘み(摘田の由来となった種もみをまく作業)、田舟(深田に浮かべて、肥料や刈り取った稲を押し運ぶのに用いる小舟)を使った稲刈りなど5種類。重文指定された「うないマンノウ」「田こすりマンガ」「ノタクリ」といった用具なども、実際の田んぼを撮影した写真が床に敷かれ、その上で道具を手に取ったり、体験できるようになっている。
生涯学習課文化・文化財保護担当の長谷川一樹さんは「歴史の年表に出てくるものではないけれど、ここで生きてきた人の確かな軌跡。体験型にしたことで、農村だった上尾を想像してもらいやすいと思う。これを機に歴史文化を少しでも伝えていきたい」と話している。
同館は上尾市畔吉178丸山公園内。開館時間は午前9時~午後5時。入場無料。問い合わせは、同館(電話048・780・1030)へ。