埼玉新聞

 

<活字文化の日>画家・あきばたまみさん、ふさぎ込んだ時期に出会った絵本 いのちやつながり感じる

  • 絵本作家、画家のあきばたまみさん

 10月27日~11月9日は「読書週間」。初日にあたる10月27日は「文字活字文化の日」に制定されています。埼玉新聞では同日付で、「私の名著~心に残る一冊&フレーズ~」と題した特集を掲載しました。

 地元埼玉にゆかりのある著名人の方々が、本との出会いや読書の素晴らしさを伝えています。本記事は同特集からの抜粋です。

■絵本作家、画家・あきばたまみさん、私の名著

 私は大学卒業後、ニューヨークに約2年間留学しました。そこであるイラストレーターの女の子と出会いました。私が絵描きになる前の話です。

 私たちはすぐに仲良くなり、私は彼女の家によく泊まりにいきました。一緒にごはんをたべて、本当にいろんな話をしました。時々けんかもしました。とても大切な時間でした。

帰国後、年賀状に描いた私の絵をみて、彼女は「あなたには絵がむいていると思う」と、あるものをわざわざ送ってくれました。今の私のメイン画材になっているパステルでした。

 そこから私は絵本作家になっていくのです。

 2011年、東日本大震災の3日後。私の道を照らしてくれた彼女はガンでこの世を去りました。幼い子どもと、「みんな楽しく生きていってね」という言葉を残して。

 それから、何もかにも受け入れられずにふさぎ込む時期が続きました。そんなときに出会った絵本が「くまとやまねこ」です。

 くまは、大好きなことりの死を受け入れることができずにいました。その様子が自分と重なり、泣いたことを覚えています。

 その後、くまはやまねこと出会い、ことりの死を少しずつ受け入れていくのですが、死を受け入れるほどに、モノクロの絵にピンクの色が足されていくのが、とても印象的なのです。

 大切な存在であればあるほど、その死を受け入れることは容易ではありません。だけれど、時間がかかっても、その死を忘れずに前向きな一歩をふみだすこと。その姿をみて、誰かがまた前向きになること。その優しいエネルギーの輪廻が、この世をまわしているのだと感じます。

 この絵本を読むたびに、友人の残した言葉「楽しく生きてね」を思い出します。コロナ禍で、いのちやつながりについて、もう一度感じるには最適な絵本。

 皆様の人生がどんどん色づきますよう。

■私のおすすめBEST3

(1)「くまとやまねこ」 文:湯本香樹実/絵:酒井駒子

(2)「アンジュール ある犬の物語」 ガブリエル・バンサン著

(3)「風に立つライオン」 さだまさし著

■あきばたまみ

 福島県出身。絵本作家、画家。著書に「インコの手紙」(経済界)、「きんばあちゃんの花見山」(牧野出版)などある。ライブペインターとして国内外で活躍。海外で高い評価を受ける。

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