埼玉新聞

 

<活字文化の日>森永卓郎さん、40年で理解 許容できない格差や災害…人を守るビジョン、求められる

  • 経済アナリスト、獨協大学経済学部教授の森永卓郎さん

 10月27日~11月9日は「読書週間」。初日にあたる10月27日は「文字活字文化の日」に制定されています。埼玉新聞では同日付で、「私の名著~心に残る一冊&フレーズ~」と題した特集を掲載しました。

 地元埼玉にゆかりのある著名人の方々が、本との出会いや読書の素晴らしさを伝えています。本記事は同特集からの抜粋です。

■経済アナリスト・森永卓郎さん、私の名著

 私が大学生だった40年前、マルクス経済学は経済学部の必修科目だった。そのため、「資本論」を読んだのだが、あまりに難解で、何度も読み返したにもかかわらず、まったく理解できなかった。その挫折が悔しくて、社会に出てからも、何とか「資本論」を理解しようと努力を続けてきた。そして、40年経った今頃になって、ようやく「資本論」が何を言っているのかを、理解できるようになった。

 その理由は、三つある。一つは、私自身が社会に出て、資本主義の洗礼を受けたことだ。学生時代は温室にいて、カネの亡者たちとの接触が一切なかった。社会に出て初めて、お金中毒の人たちに多く出会った。お金は1億円あったら一生遊んで暮らせる。100億円あったら、孫の代まで遊んで暮らせる。ところが、数百億円の資産を持ちながら、なおそれを増やしつづけようとする富裕層がほとんどだ。マルクスは、「資本主義は増殖し続ける価値だ」と言った。成長し続けないと資本主義は成り立たないのだ。

 二つ目の理由は、現実社会が、マルクスの直面していた社会に急速に近づいてきたことだ。いま世界の大富豪26人が所有する資産は153兆円で、その額は世界の貧困層38億人が所有する資産と同額だ。おそらく今のほうが、マルクスがみていた格差社会より、ずっと過酷な状態になっている。

 そして、三つ目の最も重要な理由は、『資本論』の優れた解説本が、立て続けに発表されたことだ。私は、マルクス経済学の時代は終わってしまったと考えていたのだが、地道に研究を重ねる学者が、何人も存在していたのだ。そして、その論説が注目を集めている、許容できないほど拡大した所得格差と激甚災害をもたらす地球環境破壊から、人と地球をいかに守るかについてのビジョンが求められているからだ。残念ながらそのビジョンは、いま、文字の世界のなかでしか、みることができないのだ。

■私のおすすめBEST3

(1)「人新世の資本論」 斎藤幸平 著

(2)「武器としての資本論」 白井聡 著

(3)「純粋機械化経済」 井上智弘 著

■森永卓郎(もりなが・たくろう)

 昭和32年生まれ。東京都出身。東京大学経済学部卒業。専門は労働経済学、計量経済学。金融や恋愛、オタク系グッズなど、多方面で論評を展開している。日本人のラテン化が年来の主張。

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