埼玉新聞

 

<新型コロナ>ショック…陽性者と会話なく、うがい手洗い徹底しても感染 クラスター劇団、悔やんだ反省点

  • 雑居ビル4階にあるミュージカル座の稽古場「Aスタジオ」。広さは約80平方メートルで、稽古をしていた「ひめゆり」の出演者ら76人が感染した=18日午後、さいたま市浦和区常盤9丁目

 新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生した埼玉県さいたま市の劇団「ミュージカル座」は当面の間、活動を中止する。代表のハマナカトオルさん(62)が公式ホームページ(HP)で明らかにした。劇団員42人はいずれも退団せず、活動再開を目指すとしており、ハマナカさんはメールの取材に「日本のミュージカルの灯は、ミュージカル座に限らず、才能豊かな若者たちが続けてくれると期待しています」と回答した。感染拡大の要因については「換気が十分ではなかった」「別現場を経験した人は、稽古を休むように指示を出せればよかった」とした。

 「感染が判明した時は、ただただショックでした」。自身も感染したと明らかにしたハマナカさんによると、マスクをして陽性者と近づかず、一度も話をせず、帰宅直後に手洗いや洗顔、うがいを欠かさなかったという。「気を付けておりましたので、それでも感染するのだと、本当に驚きでした」と振り返った。

 感染拡大要因の質問には「一番足りなかったのは、換気だと思います。数十分に一回ではなく、常時換気が必要。マウスシールドの人も多かった。私がマスクをしていて感染しているので、何とも言えませんが、全員マスクにしたら、数を減らすことができたのではないか」と答えた。

 HPなどによると、10月4、6日にAスタジオ(約80平方メートル)とBスタジオ(約70平方メートル)で稽古。劇団員14人を含むミュージカル「ひめゆり」の関係者91人と他の劇団関係者も含め117人がPCR検査を受け、陽性判定は76人だった。陽性者はいずれもAスタジオで稽古をした「ひめゆり」の関係者だという。全員が無症状か軽症で、既に退院、ホテル療養を終えている。

 劇場側の要請により、一度に舞台に立つ出演者は32人と決められていた。稽古でも舞台エリアに32人、エリア外に30人が見学していた。ハマナカさんによると、当日は通し稽古のため、ほぼ全員が稽古場に集まっていた。大きな稽古場への移動は翌週からの予定で、1週間遅かったことが悔やまれるという。「歌の発声も、この段階で、この稽古場では、本域で出さない方がよかった」と説明した。

 男性出演者が都内の別の現場で陽性者と接触し、無症状で稽古場に来たことにより、クラスターが起きたとみられている。ハマナカさんは「別現場を経験した人は、体調を見るため、数日間、稽古を休むように指示を出せればよかったと思います」とした。

 ミュージカル座の関係者は「換気をできる限り行い、消毒など感染防止策は徹底的に行っていた。稽古中は細心の注意を払い、役者はみな意識を持って対応していた。それでも大クラスターが起きたので、もっとできたことがあったのかもしれない。劇団の再開は夢、希望です」と話した。

 劇団はコロナの影響で上演中止が相次ぎ、年間の売り上げが90%以上の減となり、存続の危機を迎えているという。県とさいたま市が検証のため調査を進めており、指導を受けてリスクの低い上演方法を模索して再開を目指す。

 ハマナカさんは2日付でHPに公表した文書に、クラスター発生について「心より深くお詫(わ)びします」とした上で、「いつか、より魅力的なミュージカル座として新しく生まれ変わり、また創作活動ができますよう、命をかけて努力を続けます」などと記している。

■ミュージカル座

 俳優の宝田明さんが主宰していた宝田芸術学園でミュージカルを学んだハマナカトオルさんが、1995年に創立した。97年から、さいたま市浦和区常盤を拠点に活動。国産ミュージカルの発表と普及を目的に、太平洋戦争末期の沖縄で犠牲となった「ひめゆり学徒隊」の悲劇を題材にしたミュージカル「ひめゆり」が代表作。代表のハマナカさんが座付き作家、演出家として、ひめゆりをはじめオリジナルのミュージカルを制作している。

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