埼玉新聞

 

本当に彼らが盗んだか…相次いだ梨や子豚の盗難、農園主らにショック 一番の望み、平穏な日常に戻ること

  • 来年の収穫に向け、梨の剪定(せんてい)作業を行う荻野隆雄さん=10日、神川町

 8~10月にかけて、埼玉県内で梨の盗難が相次いだ。県農業支援課によると、10月下旬までに把握している梨の盗難被害は神川町や上里町、加須市、白岡市、久喜市で計約1万3800個に上った。

 神川町の大畠一成さん(58)の梨農園では、梨約500個(約18万円相当)を盗まれた。大畠さんは9月9日の早朝、4本の梨の木から、「新高(にいたか)」の品種が大量になくなっていることに気付き、同日に警察に被害を届け出た。

 「当時は収穫期で忙しく、梨を盗まれても警察に報告しない農主もいた。実際の被害はもっとあったのではないか」と大畠さんは振り返る。被害後は町や県警と連携しながら、「監視強化中」と記した看板の設置や、見回り活動の強化に努めた。

 県警は12月、入管難民法違反(不法残留)の疑いでベトナム国籍の男3人を逮捕。男らは、9月5日に大畠さんとは別の梨園から、梨を盗んだ疑いが持たれており、捜査が進められている。大畠さんは「彼らが本当に神川町の梨を盗んだのかを早く知りたい」と語る。

 総面積約6千平方メートルの梨園を管理する大畠さん。来年も被害が続くのであれば、犯人摘発のため、解像度の高い防犯カメラを設置するという。「高額な費用がかかってしまうが仕方がない。今は、町に平穏な日常が戻ることが一番の望み」と話した。

 来年から町内で梨園を経営するという荻野隆雄さん(36)は「被害が続けば、ばかばかしくなって梨園を畳んでしまう人が増えてしまうのではないか」と不安視する。

 荻野さんは、高齢化と後継者不足に悩む梨農家を支えようと、4年前に都内から帰郷し、梨作りの研修に励んでいる。「神川の梨を守るために、警戒活動など自分にできることは何でも協力していきたい」と力強く話した。

 今年は家畜の盗難被害も多発した。県畜産安全課によると、5~10月にかけて春日部市でヤギ16頭とニワトリ155羽が、9月に行田市で子豚約130頭が盗まれたほか、本庄、新座、久喜市でも子豚やニワトリがこつぜんと姿を消した。同課では、豚熱(CSF)や鳥インフルエンザなどの病気が出回る危険性を考慮し、より厳重な警備対策を県内の農家に求めている。

 久喜市の「アイガモ農園」では、10月下旬に飼育中のアイガモ約100羽(約30万円相当)が盗まれた。農園の渡辺優社長(68)は「あれだけの数のカモを普通の家で飼うことはできない。おそらく盗んで間もなく殺して、食用にしてしまったのだろう」と声を落とす。

 同農園は、アイガモを水田に放して虫などを食べさせ、無農薬でコメや野菜を育てる「アイガモ農法」を32年間続けている。渡辺さんは「愛情を込めて育てたカモを失い、精神的なショックはあるが、しっかり気持ちを切り替えて、次年度もおいしいコメと野菜を皆さんに届けていく」と前を向いた。

■県内の果物、家畜盗難

 9月10日、行田市の農場で子豚約130頭が盗まれたほか、5月から10月にかけて、神川町など県北部を中心に梨計約1万4千個、春日部市でヤギ16頭など、果物や家畜の盗難被害が次々と確認された。県警は事件に関連して11月、豚を違法に解体したとして、と畜場法違反の疑いで、ベトナム国籍の男を逮捕。12月には、神川町で梨が大量に盗まれた事件に絡み、ベトナム国籍の男らが住む群馬県伊勢崎市内のアパートを家宅捜索した。

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