埼玉新聞

 

腹が立って仕方ないが…気の毒に思う ベトナム人ナシ大量盗難、農家の願い 2人逮捕…どんなに生活苦でも

  • 盗難事件の現場付近に放置されていた群馬県伊勢崎市の指定ごみ袋に詰められた梨=2020年9月5日、神川町の梨農園(提供写真)

 昨年9月に埼玉県神川町の農家で梨が大量に盗まれた事件で、県警捜査3課と国際捜査課、児玉署、本庄署は19日、窃盗の疑いで、いずれもベトナム国籍の群馬県伊勢崎市長沼町、無職の28歳容疑者と、同市戸谷塚町、自称アルバイト従業員の38歳容疑者の男女2人=入管難民法違反(不法残留)罪で起訴=を再逮捕した。

 38歳容疑者は「(28歳容疑者から)犯行に誘われ、一緒に梨畑に行った。4人で盗んだ」と容疑を認め、28歳容疑者は「今は言えない」と供述しているという。県警は28歳容疑者を主犯格としたベトナム人男女4人のグループが転売目的で盗んだとみて、動機や経緯を調べる。

 逮捕容疑は氏名不詳の者と共謀し、昨年9月4~5日、神川町植竹の梨畑で、梨182個(計約7万2800円相当)を盗んだ疑い。

 捜査3課によると、現場近くには車が放置されており、周辺にはリュックサックや伊勢崎市指定のごみ袋に入った梨182個がそのまま残されていた。車のナンバーは有効期限が切れていたという。

 車の捜査や付近の防犯カメラから、両容疑者らの関与が浮上した。県警は昨年12月2日、関係先として判明した伊勢崎市内のアパートを家宅捜索。現場にいた28歳容疑者らを入管難民法違反(不法残留)容疑で現行犯逮捕した。38歳容疑者については同容疑で指名手配していたところ、昨年12月28日、東京出入国在留管理局に出頭したため逮捕した。

 28歳容疑者と38歳容疑者はいずれも技能実習生として入国したが、在留期限が切れていた。28歳容疑者は「福島で水道関係の仕事をしていたが、給料が安かった。このままでは帰れないので、お金が稼ぎたかった」と供述。38歳容疑者は「福岡の会社で仕事をしていた。日本に残ってもっと稼ぎたかったので逃げ出した」と話しているという。

 両容疑者は昨年中に知り合い、事件のあった9月ごろには他のベトナム人らと一緒に伊勢崎市内のコンテナハウスで生活していたという。

 県内では北部を中心に昨年8月ごろから、梨の盗難被害が相次いで発生。神川町、上里町などの農家でこれまでに計5千個以上が盗まれており、県警が関連を調べている。

■「安心、同時に気の毒」 神川の被害農園

 被害に遭った、神川町植竹の梨農園の女性(76)は、元技能実習生の再逮捕を受けて、「安心したと同時に、彼らが少し気の毒にも思える」と複雑な心境を明かした。

 女性によると、昨年9月5日の朝、農園を囲むネットが破られ、木になっているはずの大量の梨がなくなっていた。農園付近の道端には、梨が詰まったリュックと群馬県伊勢崎市の指定ごみ袋が放置されていたという。

 女性は「放置されていた梨以外にも、実際にはもっと大量の数が盗まれている。他の農園の方たちも立て続けに被害に遭い、当時は腹が立って仕方がなかった」と振り返る。一方、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、ベトナム人技能実習生たちが生活苦に陥っている現状を報道などで知るようになり、少しずつ気持ちの変化が生まれたという。

 「盗まれたものは戻ってこないから、気持ちは切り替えている。技能実習生たちもいろいろと苦労をしているかもしれないが、どんな事情があっても悪いことはしないでほしい」と女性は願っている。

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