埼玉新聞

 

<乳児放置死>対応苦慮…父親、コロナ口実に行政の訪問拒否 他にも同様の家庭が 対策は「ベランダで」

  • 川口署=埼玉県川口市西青木

 美里町の自宅で衰弱した生後3カ月の金井喜空(きあ)ちゃんを放置して死亡させたとして、両親が逮捕された事件で、父親(29)は喜空ちゃんが生まれる前の昨年4月ごろから、新型コロナウイルス感染症を理由に町の訪問を断っていた。以前から拒否的な反応を示しており、コロナを口実に使った可能性はあるものの、町は「コロナと言われると、なかなかそれ以上手を出せない」と苦慮。コロナ禍での児童の安否確認や虐待事案への対応の遅れが懸念される。

 父親と母親(28)は昨年8月ごろ、自宅で、低体重、低栄養状態だった四女喜空ちゃんを病院に連れて行かず放置し、昨年9月11日に死亡させたとして、保護責任者遺棄致死容疑で県警に逮捕された。喜空ちゃんの死因は傷口から細菌に感染したことによる全身機能障害だった。捜査関係者によると、顎や肋骨(ろっこつ)を骨折しており、ミルクを飲むことが困難な状態だったという。

 父親は県警の調べに、「私が喜空にけがをさせた。虐待で捕まるのが嫌で病院に連れて行かず、そのままにした」。母親は「病院に連れて行かなければならないと思ったが、夫に拒否されて従ってしまった」と供述しているという。

 美里町によると、町と母親との関わりが始まったのは2015年。次女の妊娠届が出されたことをきっかけに、経済面や住まいの確保などの支援を行っていたという。19年9月に開かれた要保護児童対策地域協議会(要対協)で支援対象となったこともあり、出産後も定期的に家庭を訪問して、子育て支援の情報提供を行うなど見守りを続けていた。

■ベランダで確認

 状況が変わったのは、町が父親の存在を確認した同年7月ごろ。町からの連絡に応対するのが、母親から父親に変わり、訪問にも拒否的になったという。

 昨年4月ごろからは「コロナになったら責任が取れるのか」「強制なのか」などと訪問を拒否。町は同年5月に喜空ちゃんと双子の三女が生まれてから、両親に計30回電話していたが、連絡がついたのは計8回。母親が電話に出ることはなかった。町では生後3カ月以内の子どもがいる家庭を対象に、保健師らが乳児訪問を実施しているが、双子は1カ月検診や7月に町の保健センターで行われた検診で、体重増加や衣服の状態などが良好であることが確認できたため、家庭を訪問することはなかった。

 町はコロナを口実にしている可能性も捨てきれなかったが、大沢建孔副町長は「コロナと言われてしまうと無理強いはできない」と対応の難しさを語る。

 町とともに支援していた熊谷児童相談所によると、昨年の新型コロナの感染拡大以降、コロナを理由に訪問を控えてほしいという声は他の家庭でもあったという。その際にはベランダに出てきてもらい、目視で子どもの様子を確認するなどの方法を保護者に提案している。

 羽生公洋所長は「子の状態を確認することが重要だということを保護者に説明して対応している。子の安全が何より優先」と話す。家庭訪問の際にはマスクを着用し、消毒液を携帯するなど感染防止対策を実施している。

■防護服を準備

 一方、県警では通報を受けて住宅内に立ち入る場面などでは警察官がマスクやゴーグルを着用。必要に応じて防護服も用意されている。

 児童虐待事案を扱う県警少年課でも同様の装備や対策を取りながら対応することが可能だ。コロナ禍であっても、虐待が疑われる家庭に児相職員が立ち入り調査する「臨検」の際や、保護者が調査を拒否・抵抗する可能性があるなどの理由で児相から援助要請があった場合には、児相職員らとともに同行して支援する。

 同課は「町や市単位では、防護服などの装備を準備することが難しいケースがあるのは今後の課題。引き続き、自治体や児相と連携を取っていきたい」としている。

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