新鮮な魚介類で支援 震災前より良くなって復興 かき小屋小江戸・店主、生産者の手助けを #これから私は
2021/03/12/00:00
「あの震災から10年、決して風化させてはいけない。食文化を通じて被災地の復興支援につなげられたら」。川越総合卸売市場(埼玉県川越市大袋)の一角にあるカキ料理専門店「かき小屋小江戸」の店主、太田広夫さん(67)は穏やかに話す。(足立英樹)
商品ケースに並ぶのは東松島(宮城)や陸前高田(岩手)など三陸から連日直送される新鮮な魚介類の数々。中でも殻付きカキは“復興牡蠣”と名付けられ、「埼玉ではなかなかお目にかかれない逸品。小ぶりでも濃厚でおいしい」と自信を見せる。
秋田県出身の太田さんは34年間、神町駐屯地(山形)などで陸上自衛官として勤め上げた。震災発生時は予備自衛官だったが、実際に災害派遣要請はなく、現地に赴けなかったことがずっと心残りだったという。退官後はいくつか会社を起業するも心の中の“もやもや”が晴れることはなかった。
そんな折、宮城県仙台市でカキ販売を通じて被災地の支援を行う人物から「震災前よりも被災地域が(経済的に)良くなって初めて真の復興ではないか」と言われ、胸が熱くなった。「被災地支援の形はいろいろあっていい。自分は三陸の味覚をこの埼玉に広めることで、生産者の手助けをしよう」とそれまでのこだわりを捨てて2014年、この地での開業を決意した。
派手な宣伝はできないが、口コミで徐々に知られてきた。「東北出身の人が地元をなつかしんで来てくれることもある。食べ方や味付けも産地と同じにこだわっている」と太田さん。コロナ禍で決して経営は楽ではないが、「東北人は明るくて強いですから。体が動く限りまだまだガムシャラに頑張りたい」と屈託なく笑った。
=埼玉新聞WEB版=