埼玉新聞

 

ALS夫に「時間稼ぎですか」…介護給付も少なく決定、市に賠償命令 家事や育児に追われた妻、夫を介護できる時間わずかで過酷 市「妻が介護するなら給付は増やせない」…余儀なくされた離婚

  • 判決後に会見する藤岡毅弁護士(左)ら=8日午前、さいたま市浦和区

    判決後に会見する藤岡毅弁護士(左)ら=8日午前、さいたま市浦和区

  • 判決後に会見する藤岡毅弁護士(左)ら=8日午前、さいたま市浦和区

 重度訪問介護の介護給付について、1日当たり約13時間とした吉川市の決定は不当として、同市に居住していた全身の筋力が低下する難病「筋萎縮性側索硬化症」(ALS)患者の男性(48)が同市を相手取り、24時間態勢の介護給付などを求めた訴訟の判決が8日、さいたま地裁(田中秀幸裁判長)であり、同地裁は市に対して1日当たり約19・5時間の給付や男性が負担した介護費用の一部を含め計約133万円などの支払いを命じた。市による給付検討の怠慢や不適切な対応も指摘されるなど、市民に寄り添わない市側の姿勢が改めて浮き彫りとなった。

 判決理由で田中裁判長は、当時婚姻関係にあった妻による男性の介護状況について、日常的な家事や子どもの世話などを考慮すると、人工呼吸器の装着や排たんなどの手厚い支援が必要だった男性の介護に充てられる時間は少なく「過酷な環境に追い込まれていた」と指摘。当初の市による介護給付判断は「考慮すべき事項を考慮しないことにより社会通念上妥当性を欠いている」とした上で「検討を怠っていたと言わざるを得ない」と非難し、男性が負担した介護費用の一部と、慰謝料計約133万円の支払いを命じた。

 市側は調査を経た上で、介護給付を除く時間は客観的に判断しても妻による介護が可能だったとして「社会通念に照らして合理性に欠くといえない」などと主張していた。

 判決などによると、男性は2015年にALSと診断され、19年に気管切開手術を行い人工呼吸を装着。ヘルパーによるたんの吸引が常時必要になったことなどから、ほかの市の施策と合わせて24時間態勢の介護給付を求めたが、市側は1日当たり約13時間の介護給付を決定。その取り消しなどを求めて21年に提訴していた。

 吉川市は「判決文を見ておらず、現時点でのコメントは差し控える」とした。

■軽率な執務態度非難

 難病患者支援における吉川市の対応の瑕疵(かし)が認められた今回の判決。適切な対応を求め続けていた男性は判決を受けて「最初の(サービス)支給量が違法だと認められて満足している。全国の障害者が幸せで安心に生活できるようになればと思う」とコメントを寄せた。

 原告代理人によると、男性は妻の介護がある以上は介護給付は増やせないとした市側の見解から、2020年に離婚を余儀なくされ単身で越谷市に転居。現在は24時間態勢の介護サービスを受けている。

 また男性を巡っては、19年に介護支給に関する調査で自宅を訪れた同市の職員に「寝返りを打てますか」と聞かれた際、文字盤を使って答えようとすると「時間稼ぎですか」などと言われたとして市に抗議し、市が謝罪する事態にも発展していた。今回の判決で田中裁判長は「重大な落ち度のある、あまりにも軽率な執務態度によるものであったと評価されてもやむを得ない強度の誹謗(ひぼう)中傷的な発言」と非難し、慰謝料として5万円の支払いを市に命じた。

 8日に会見した原告代理人の藤岡毅弁護士は「障害福祉に関わる職員が一番理解しなくてはいけないにもかかわらず、現実には向き合おうとしていないことがあらわになった。生活に直結する以上、丁寧に事情をくみ取るべきだ」とした上で判決については、「同じような障害を持つ方にとって救いになる内容で、意義があった」と評価した。
 

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