埼玉新聞

 

コロナ禍で予期せぬ妊娠増加 産婦人科の医療機関、中高生に無料の妊娠相談 スマホ妊娠の深刻化も指摘

  • 鮫島かをる事務長(左)ら、あんしん母と子の産婦人科連絡協議会メンバーら=3月9日、熊谷市

 コロナ禍で若者の予期せぬ妊娠や0歳児の虐待死を防ごうと、「あんしん母と子の産婦人科連絡協議会」に参加する全国20の産婦人科医療機関で、中高生への無料の妊娠相談を行っている。同協議会理事長でさめじまボンディングクリニック(熊谷市)の鮫島浩二院長は「コロナ禍で予期せぬ妊娠が増えていると感じる。親と一緒でなくてもいいので相談に来て」と呼び掛けている。

 新型コロナの影響で学校が休校になったり、自宅にいる時間が長くなるなどして、若者の予期せぬ妊娠が増えているのではないか―。「明確なデータはないが、増えていると感じる」と鮫島院長は懸念する。

 予期せぬ妊娠の場合、病院ではなく、母子共に危険な自宅での出産が少なくなく、表面化しにくい。ただ、友人に相談したり、産婦人科を受診しようとして親と一緒でないことや保険証が使えない、と断られたりするなど、「何らかの発信はある」(鮫島院長)という。かすかなSOSを見逃さないため、同院では受診のハードルを下げ、通常1万円前後かかる初診料を無料に、2万円ほどする緊急避妊薬も原価の4千円にし、「親と一緒でなくてもいいので相談に来てほしい」と呼び掛けている。

 コロナ禍で鮫島院長が「若者が他者との付き合い方が狭く深くなっているのでは」と考える、もう一つの理由に会員制交流サイト(SNS)がある。

 同協議会の鮫島かをる事務長は今、スマートフォンの出会い系サイトや婚活アプリを通じて関係を持ち、その後アカウントを消去して連絡が取れなくなる「スマホ妊娠」が深刻化していると指摘する。

 この場合、同意があるため刑事責任は問えず、中絶や分娩(ぶんべん)費用の負担や養子縁組への同意なども得られない。「予期せぬ妊娠の半分以上は男性側の責任。損害賠償請求をしても住所を変えて逃げたケースもある」と鮫島事務長は憤る。

 性暴力被害者支援看護師の吉田知重子さんは「安心できる居場所がなく、SNSでつながりを求めてしまうという背景があり、10代の予期せぬ妊娠は社会問題の表れ。信頼できる大人と出会えるようにすることが大事」と話す。

 悲しい事例も起きている。厚生労働省のまとめによると、2018年度の虐待による子どもの死亡事例の約4割が0歳児で、そのうち約3割が月齢0カ月だった。親に相談できず、ひそかに出産した女性が生まれた赤ちゃんの甲高い泣き声を静かにさせようと口を押さえて死亡させる、そんな事例も含まれている。鮫島事務長は「罪のない命を救うのは国の責任。予期せぬ妊娠をした女性の自立までサポートする韓国のように、日本でも女性が立ち上がって訴えるべきだ」と強調する。

 予期せぬ妊娠、出産の場合、生まれた子の未来は険しくなることもある。「赤ちゃんポストに預けても、成長したときに自分が何者か分からず、人生を助けたことになるのか」と鮫島院長は指摘し、適切な支援で困難な状況から立ち直る女性もいることを挙げる。「産婦人科を通して親が穏やかに妊娠を受け入れ、養子縁組や家族での養育につながる場合も数多くある」と一人で抱え込まないよう呼び掛けている。

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