埼玉新聞

 

「怖い」の奥にある人の美しさ 実際にあった不思議な出来事 怪談通じ歴史伝える

  • 「埼玉回遊〈特大号!〉」に出演する北城椿貴さん(彩の国さいたま芸術劇場提供、(C)大洞博靖)

    「埼玉回遊〈特大号!〉」に出演する北城椿貴さん(彩の国さいたま芸術劇場提供、(C)大洞博靖)

  • 書店で開かれた子ども向けイベントで怪談を語る北城椿貴さん

    書店で開かれた子ども向けイベントで怪談を語る北城椿貴さん=4月、さいたま市内

  • 「埼玉回遊〈特大号!〉」に出演する北城椿貴さん(彩の国さいたま芸術劇場提供、(C)大洞博靖)
  • 書店で開かれた子ども向けイベントで怪談を語る北城椿貴さん

 本庄市の北城椿貴(つばき)さん(35)は、IT会社に勤務しつつ、「彩の国の怪談師」として、県内を拠点に活躍中だ。北城さんが目指すのは、怖いだけでなく、地域に寄り添い、怪異の中にある歴史や教訓を伝えること。怪談会で話すのに加え、舞台や県内各地の祭りに出演するなど、活動の幅を広げている。北城さんは「『怖い』の奥に人の美しさと営みがある」と魅力を語る。

■怖い話をする才能

 「どうしてここに桜が咲いたのか。いったい誰が植えたのか」。3月上旬、彩の国さいたま芸術劇場(さいたま市中央区)で上演された舞台「埼玉回遊〈特大号!〉」に北城さんの声が響く。北本市の「石戸蒲(かば)ザクラ」にまつわる美しく悲しい怪談を、観客は真剣な表情で聞いていた。

 神奈川県出身の北城さんは、子どもの頃から怖い話が好きで「ちょっと不思議な体験」をすることもあったという。約9年前、当時住んでいた群馬県高崎市で開催された「百物語」(順番に怪談話を語っていく会)に参加。会場にいた人から「一番怖かったです」と称賛され、語り部の才能に気付く。2020年、この時の話が本として出版され、怪談師の活動を始めた。

 怪談師とは怪談を語る人。「牡丹(ぼたん)灯籠」などの古典怪談を持ちネタにする人もいるが、北城さんは実際にあった不思議な出来事を取材し、自分なりに編み直した怪談を発表している。全国各地で取材するが、特に埼玉の歴史や城にまつわる怪談を収集しており、レパートリーは150話以上。トレードマークは、赤色の着物や浴衣姿。会場に発光ダイオード(LED)キャンドルをともし、観客の反応を見ながら、内容や口調を変えていく。

■時代に合った怪談

 怪談を愛する北城さんだが、ホラースポットとして取り上げれば、住民が嫌な思いをすると悩んだ時期も。その時、頭に浮かんだのが、怪談を通じて歴史や教訓を伝えることだった。「これなら公益性があり、取り組む価値があると思いました。怖さを誘いつつ、歴史などを入れ、学びがあるよう構成している」と話す。

 例えば、相次いで人が亡くなった秩父の沢の話では、「山の怖さ」「登山での準備の大切さ」などを織り交ぜる。北城さんの怪談を聞いて、石戸蒲ザクラを見に行った人もいるといい、「怪談で観光のPRもできる」と自信を深めている。

 さまざまな県民や文化が登場した舞台「埼玉回遊」をきっかけに、県内各地の祭りや地域イベントに呼ばれることが増えた。怪談師としての出演だけでなく、ボランティアでチラシ作成や運営に携わることも。その際、土地にまつわる不思議な話を教えてもらい、「埼玉の怪談」が集まりつつあるのだという。

 北城さんは「地域の人との交流が本当に楽しい。怪談はきっと後世へのメッセージ。埼玉の歴史ミステリーをどんどんひもときたい」と笑顔を見せた。

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