<新型コロナ>変化する旅行スタイル、秩父・長瀞の旅館で1人のんびり 露天風呂を貸し切って「命を洗濯」
コロナ禍の生活が続く中、秩父市や長瀞町を訪れる人たちに旅行意識の変化が生まれている。感染防止対策のため、観光に出掛けずに宿で1日過ごす一人客や、混み合う休日を避けて平日に予約を入れる年配客が目立つ。繰り返される外出自粛要請で苦境が続く秩父地域の宿泊業関係者は、静かにくつろげる空間の提供に力を入れ、コロナ禍に合わせたおもてなしで宿泊客を迎え入れている。
秩父市荒川上田野の宿「竹取物語」では、コロナ禍以降、一人旅の宿泊客が増加している。緊急事態宣言解除後に営業を再開した昨年6月から今年3月までの同宿の一人利用客数は106人。コロナ禍前の2019年6月~20年3月と比べ31人多かった。
同旅館のおかみ浅見礼子さん(61)によると、「コロナ疲れを解消したい」と観光地巡りをせずに、部屋で1日くつろぐ宿泊客が増えている。一人客は県内居住の40~50代男性が多いが、医療従事者の女性が息抜きに訪れることもあるという。
同宿の利用は中学生以上で1日7組、1室2~4人限定のため、静かに過ごしたい年配夫婦や同性仲間の宿泊客が多い。また露天風呂が完全貸し切り制のため、プライベートの空間が保てるという。
同宿は宿泊客の満足度を高めるため、19年8月以降、宿泊人数の制限を設けた。1996年からおかみを務める浅見さんは「家族連れのリピーターや集団客の受け入れを断ることもあり、当初は心苦しい思いをした」と振り返る。
丁寧なおもてなしで新規客は少しずつ増えていったが、昨年の緊急事態宣言を受けてキャンセルが急増。今も完全には客足が戻っていないが、浅見さんは「コロナ禍でも安心して利用できると、宿泊客に言われたときは、人数制限を設けて良かったと感じる。コロナ疲れを癒やせる空間を提供していきたい」と話す。
長瀞町井戸のホテル「セラヴィ」では、コロナ禍以降、平日の宿泊客が増えている。同ホテルの営業日は毎週木曜~日曜日。経営者の清水美枝さん(61)によると、昨年6月以降は木曜や金曜日に予約が埋まり、土曜日に空きが出るケースが目立っているという。
清水さんは「混雑しそうな休日の宿泊を避ける宿泊客が増えた。コロナ禍前まででは考えられない予約状況が続いている」と説明する。ホテルはアンティーク家具に囲まれた趣の異なる客室が特徴で、別荘感覚で利用する60歳以上の宿泊客が多い。最近は観光に出掛けずにチェックアウトの正午まで、客室やレストランでのんびり過ごす宿泊客が増えているという。
同ホテルは19年10月の台風19号で、地下の客室2部屋が浸水する被害を受けた。昨年4月に復旧作業を終え、再開を予定していた矢先に緊急事態宣言が発令された。「宿泊客がいない状態が1年以上続き、このまま宿を続けてよいかと悩んだ時期もあった」と清水さんは打ち明ける。
GoToトラベルの後押しもあり、経営は昨年7月ごろから少しずつ回復。清水さんは「お客さまに『命の洗濯ができた』と言われたときは、この人たちのために宿を続けるだけで十分価値があると確信した。コロナは先が見えないので不安だが、スタッフ一同、士気を高めていく」と語った。