埼玉新聞

 

がん闘病、出版直前に逝く 47歳女性イラストレーター 温かさあふれる遺作、家族のお守りに 読者に癒し

  • 寺中有希さん(りょうゆう出版提供)

    寺中有希さん(りょうゆう出版提供)

  • 「自分のとなりに座ってみたら 私の幸せチャレンジ 明るいほうへ、楽しいほうへ」を編集した、りょうゆう出版代表の安修平さん

    「自分のとなりに座ってみたら 私の幸せチャレンジ 明るいほうへ、楽しいほうへ」を編集した、りょうゆう出版代表の安修平さん

  • 寺中有希さん(りょうゆう出版提供)
  • 「自分のとなりに座ってみたら 私の幸せチャレンジ 明るいほうへ、楽しいほうへ」を編集した、りょうゆう出版代表の安修平さん

 白岡市のりょうゆう出版から2022年2月、1冊の本が刊行された。「自分のとなりに座ってみたら 私の幸せチャレンジ 明るいほうへ、楽しいほうへ」は、イラストレーター寺中有希さん(東京都練馬区)の遺作。ありのままの自分を受け入れることが幸せにつながると、柔らかいタッチの絵とともに語りかける。がんを患い、本の完成直前、47歳の若さで天国へ旅立った寺中さん。30年近い付き合いのある、りょうゆう出版代表の安修平さん(65)は「優しく、温かい気持ちになる本を多くの人に読んでもらいたい」と話す。

■生きる糧に

 安さんが寺中さんと出会ったのは都内の出版社に勤めていた1995年ごろ。大学生だった寺中さんが参加していた教育研修会社が翻訳本を出すことになり、編集者と翻訳側の取りまとめ役という立場で顔を合わせた。「元気で明るく、物おじしない。不思議な女性だった」。以降も付き合いは続き、2017年までに5冊の本を出版した。

 安さんが独立し、りょうゆう出版を立ち上げた後の21年、交流サイト(SNS)に投稿されていた寺中さんの文章やイラストを見て、「本にしないか」と提案。4月ごろから「自分のとなりに座ってみたら―」の編集作業が始まった。寺中さんは15年に乳がんを発症し、治療中だったことは知っていたが、企画が立ち上がった当初は元気そうに見えたという。

 しかし、背骨、骨盤、そして脳にも転移したがんは、確実に寺中さんの命をむしばんでいた。夏になって急激に体調が悪化。書籍化に当たり文章の再考など負担を強いる作業もあったため、安さんは「このまま進めていいのか」と葛藤したが、寺中さんを隣で見守ってきた夫祥吾さん(40)の「生きる糧になっているから続けてください」という言葉に背中を押された。

■とても楽しみ

 寺中さんが息を引き取ったのは22年1月12日。「とてもとても楽しみです」。本の完成を待ち望む年明けのメッセージが、寺中さんとの最後のやりとりとなった。本が安さんのもとに届いたのは通夜が終わった22日だった。「もう少し早く作業を進めていれば、間に合ったのかもしれない。出来上がった本を見せられなかったのが悔しい」

 出版直前に著者が亡くなるという不測の事態と残された家族のことを思い、安さんはこれまで積極的なPRを控えてきた。2年が経過し、「寺中さんと同じ40代は仕事や家庭で悩むことが多い。そういう人たちに『自分に優しくていいんだよ』と語りかける本が少しでも励みになれば」と思い直した。

■家族のお守り

 「毎日、幸せについて考えたことや発見」をまとめた本からは、闘病生活の苦悩や悲嘆は感じられない。「自分を知るのって、大切だな。そこから幸せが始まる」「いいの、いいの。今日はそのままでいいの」「大安は自分でつくれる! ほら、踊ってみようよ! 今日は大安!」。前向きな言葉に、ほのぼのとしたイラストが添えられている。読者からは「ほっこりした」「気持ちが和らいだ」といった感想が寄せられているという。

 2人の子どもを育てる母親でもあった寺中さん。あとがきで家族の支えに感謝し「三人も、それぞれの『私の幸せチャレンジ』を見つけてみてね!」と呼びかけている。

 祥吾さんは本は残された家族にとって「お守り」だといい、「有希が少し未来の自分へ投げかけていたその絵と文章が、亡くなるまでの数年、有希自身と重なってきているような感じがあって、隣にいてとても幸せだった」と振り返る。◇

 本はA5変形判、104ページ、税抜き1100円。問い合わせは、りょうゆう出版のサイト(https://ryoyu-pub.com/)から。

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