埼玉のイチゴ・あまりん全国3連覇 秩父の観光イチゴ園「ただかね農園」 大雪被害から再建、ワイン堆肥も開発
秩父市下吉田の観光イチゴ園「ただかね農園」が生産した、県オリジナル品種「あまりん」が、コロンバン(東京都渋谷区)主催の「第3回 お客様が選ぶ!!全国いちご選手権」で優勝し、3連覇を果たした。同園園主の高野宏昭さん(50)と妻の奈美子さん(43)は、6月25日に都内で開かれた表彰式に出席し、「多くの方に支えていただいたおかげ」と思いを語った。後日、宏昭さんは「経営が順調なときはけんかばかりだけど、ピンチのときにいつも助けてくれるのは妻。イチゴ園は妻なくしては続けられていない」と胸の内を明かし、改めて奈美子さんに感謝した。これまでの華々しい功績は、夫婦二人三脚でたくさんの苦悩を乗り越え、つかんだ。
■あまりん浸透実感
同選手権は、全国の産地から厳選されたイチゴを使用したワッフルを、2月に都内のフルーツワッフル専門店「ワッフルパレット」で販売し、販売個数、売り上げ、お客さまアンケート得票数を基に順位を競う。ただかね農園のイチゴのワッフルは期間中、470個、56万4千円を売り上げ、千葉県産「ふさの香」など全国各地の人気7品種を抑え、総合順位で3年連続1位に輝いた。「あまりんが全国に浸透し、加工品でも受け入れられている」と、宏昭さんは実感した。
ただかね農園は1990年に、400平方メートルのハウスでイチゴ栽培を始めた。ハウスの増設や直売所・観光施設整備を進め、現在は6棟計7500平方メートルのハウスで、県品種のあまりん、かおりん、べにたまを柱に計8品種を栽培。収穫期の1月中旬から6月上旬は、多くの観光客がイチゴ狩りに訪れる。「秩父の気候は昼夜の気温差が激しく、日照条件が最適」と宏昭さん。以前は畜産事業なども行っていたが、2000年以降はイチゴ生産に絞り、「大地で育てるイチゴ」を追求している。
■絶望の中、黙々と
14年2月、最大積雪深98センチの大雪が市内を襲い、秩父地域の観光イチゴ園は甚大な被害に見舞われた。ただかね農園のハウスは8割が倒壊。宏昭さんはすぐにメーカーに問い合わせて再建を進めたが、1年後、ハウス建て替えの資金が回らなくなった。
絶望に打ちひしがれる宏昭さんの前で、奈美子さんは黙々と収穫作業を続けた。「未来の利益よりも、今は子どもの生活を守ることが最優先」。奈美子さんは、被害を免れた状態の良いイチゴをハウスから回収し、お金に変える努力を重ねた。「自分だったらプライドが邪魔をして、そんな行動は取れなかった」と、宏昭さんは当時を振り返る。
■ワイン堆肥を開発
同園は、環境に配慮した地域循環型農業を20年前から取り組んでいる。宏昭さんが、市内生産者のキノコ、キャベツ、もみ殻などを活用し、堆肥づくりに試行錯誤している時、奈美子さんが「ワインの搾りかすで土づくりができないか」と提案。近隣のワイン醸造所「秩父ファーマーズファクトリー兎田ワイナリー」の協力を得て、ポリフェノールや天然の糖分が詰まったブドウの搾りかすを使った、「ワイン堆肥」(17年に商標登録取得)を完成させた。「ワイン堆肥は近場で仕入れられるし、土壌がふかふかになるのでいいことずくめだった」と宏昭さんは説明する。
「あまりんの評価は年々高まっているので、お客さまは『このイチゴは絶対においしい』と信じて購入してくれている。これからも良い賞を取り続け、皆さんの期待を裏切らないイチゴを作っていく」。奈美子さんの熱い言葉に、宏昭さんはうれしそうにうなずいた。