埼玉新聞

 

18歳の娘死亡…速度超過のトラックにはねられる、運転手は携帯に夢中 自宅近くの横断歩道で悲劇…気付いた母「違うよね」とすがり、震える父「娘だ」 搬送後に医師「どうにもできない」病室で最後に撮った家族写真

  • 娘を失った経験を語る早舩麻里さん=9日、県警本部

    娘を失った経験を語る早舩麻里さん=9日、県警本部

  • 娘を失った経験を語る早舩麻里さん=9日、県警本部

 犯罪や事故の被害者支援充実を図る県犯罪被害者支援推進協議会の定期総会が9日、さいたま市浦和区の県警本部で開かれた。県警や県、市町村、医療、法律、報道など104機関、団体が参加。2018年に次女の実希さん=当時(18)=を交通事故で失い、「関東交通犯罪遺族の会(あいの会)」で活動する早舩麻里さん(52)=川口市=が講演し「皆さんの当たり前の毎日は、生きられなかった人の毎日でもある。一度しかない人生を大切にしてほしい」と訴えた。

 18年5月10日、看護師を目指す専門学校生だった実希さんは自宅から約100メートル離れた横断歩道を自転車で走行中、トラックにはねられた。運転手は携帯電話で通話し、速度超過もしていた。実希さんは頭部を強く打ち、救急搬送された。

 麻里さんと夫は事故直後、緊急車両で騒然とする現場を車で通りがかった。娘の自転車と傘が目に入り「(被害者が)実希だと半分、確信した」。病院で自身は面会を止められ、一人で確認した夫に「実希じゃないよね」とすがったが、夫は青い顔で「実希だよ。きれいな顔をしているよ」と下を向いた。手術の同意書に夫が署名する間、麻里さんは震える夫の左手を握っていた。

 手術後、「今の医療ではどうすることもできない」と医師に告げられ、集中治療室から一般病棟に移った実希さんを、多くの友人らが見舞った。好きだった歌手の音楽を、負傷していない方の耳元で流した。事故から4日目の朝、息を引き取った実希さんを囲み、最後の家族写真を撮った。

 事故後、麻里さんはいつも買い物をしていた近所のスーパーに行けず、テレビなどで交通事故のシーンを見られなくなり、免許更新の際に見せられた講習ビデオでも涙が止まらなくなった。講演では「普通そうに見えても、命日のたび、事故当時に引き戻され、体調不良や憂鬱(ゆううつ)を抱いている遺族がいると知ってほしい」と訴えた。

 また、「当時は普通の自転車でヘルメットをかぶる人はまれだったが、実希が着用していたら助かったかも」と着用が努力義務化された自転車ヘルメットに言及。「(私としては)義務でと思う。一つしかない命を守るために自分でできることはある」と強調し、「皆さんは『いってきます』と出かけたら『ただいま』と帰ってください。お土産なんかいらない。お土産は皆さん自身」と家族を失うつらさをにじませた。

 同協議会は1998年、関係機関や団体が連携、協力して被害者の要望に即した支援を推進するために設立された。会員数は当初の32から118の機関、団体に拡大した。同協議会会長の鈴木基之県警本部長はあいさつで、県内の犯罪や交通事故の状況を説明し「事件や事故が発生すれば、そこには被害者や家族が存在し、傷つき、苦しむことになる」と指摘。参加者に被害者支援活動へのさらなる理解と協力を呼びかけた。
 

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