<新型コロナ>パワハラや差別の可能性も 企業求める、職場復帰での陰性証明…当事者に心理的な圧迫
新型コロナウイルスの感染収束が見通せない中、感染者や濃厚接触者となった従業員に対し、職場での感染拡大を懸念して復帰の際に陰性証明を求める企業の対応が問題視されている。当事者は心理的な圧迫に加え、不要な検査を強いられることで経済的な負担も。企業側のこうした対応は差別やパワーハラスメントに該当する可能性もあり、県は正確な情報に基づき冷静に対応するようホームページ(HP)などで呼び掛けている。
厚生労働省の5月時点の「新型コロナウイルス感染症診療の手引き」によると、感染可能期間は発症前後の12日間程度とされ、変異株や無症状を含め、感染者は症状軽快から72時間がたっていれば、陽性が確定した検査日から10日間で療養を解除できる。濃厚接触者は感染者との接触から2週間で自宅待機を解除できる。
県北地域に住む女性は3月下旬、息子が感染し、自身や家族は陰性だったものの濃厚接触者となった。女性1人が世話に当たり、ほかの家族は健康観察期間が2週間で済むよう隔離。しかし夫は勤務先の上司から「お互いの安心のため自費で家族全員が検査を受け、陰性と分かる証拠を提出してほしい」と求められた。
女性は取材に「これまでは私も、治った後に検査不要と知らなかった」と会社側の対応に理解を示しつつも「息子の療養終了後も2週間の待機期間があったのに、途中で全員の結果を出す意味があるのか」と疑問を呈した。
自費でのPCR検査は1回につき数万円かかる場合もあり、経済的な負担ものしかかる。一家はインターネットで検査キットを一つ5千円で購入し結果を会社に提出した。女性は「しっかりした会社だと信頼していたので、非科学的な要求に驚いた。行政がもっと『復帰に検査は不要』と周知してほしい」と訴える。
3月に県HPで公開した解説動画で、大野元裕知事は「発症から10日間経過したのに出社を拒否するのも差別の一つ」と指摘。6月定例県議会では関本建二保健医療部長が「職場復帰に陰性証明や就業制限解除通知書の提出は必要ない」と答弁し、板東博之産業労働部長も「陰性証明などを本人の意に反し企業が求めることは、パワハラに当たる可能性がある」と述べた。
それでも、県労働相談センターには職場復帰を巡るトラブルの相談が後を絶たない。感染者や濃厚接触者がパートやアルバイトなどの勤務先から「検査結果や陰性証明を出すまで出勤しないでほしい」と要求される例もあるという。
県は昨年8月に作成したチラシで「感染者に陰性証明などを求めてはいけません」と呼び掛けてきた。また、延べ8千社が登録する県のメールマガジンでは今年6月末から同様の内容を発信しており、9月ごろには職場のハラスメントに関する動画でも呼び掛ける予定としている。
県多様な働き方推進課は「各企業でも人事担当者などを中心に社内の周知を図ってほしい」と協力を求めている。