木と対話し大きく甘く 埼玉オリジナル品種のナシ「彩玉」 栽培は県内の生産者に限定 テレビでも取り上げられ人気上昇中 大きさと甘さが特徴
蓮田市の「吉澤果樹園」で15日、県のオリジナル品種のナシ「彩玉(さいぎょく)」の品質調査が行われた。ソフトボール大の収穫したばかりの果実約20個が机に並ぶ。生産者の吉澤一徳(39)は果実を口に含み、「上々です」と満足そうにつぶやいた。
彩玉は県が開発したブランド梨で、栽培は県内の生産者に限定されている。平均の重さ550グラム、糖度は13~14度。大きさと甘さが特長だ。収穫期は8月下旬から9月上旬。10年前に情報バラエティー番組でも取り上げられ、人気上昇中。県内のナシ生産の“起爆剤”として注目を集めている。
吉澤家は12代続く農家で、ナシ園を始めたのは祖父の代から。現在、父・吉郎(74)と約1ヘクタールの畑で幸水、豊水、彩玉などをメインに栽培している。彩玉を導入したのは15年ほど前。吉澤は「おいしいのに収穫量がある優れた品種。木が丈夫で栽培もそこまで難しくない。酸味のない甘さで日本人好みの味」と語る。
「甘くて大きいナシ」が評判の吉澤の果樹園では、過去に重さ1・9キロの彩玉ができたこともある。栽培の極意は「木との対話。何も言ってくれないが、しっかり見れば教えてくれる」。
枝に葉さえない冬期から、夏の収穫期を具体的にイメージして栽培管理を行うのが重要という。例えば、春に花の蕾(つぼみ)を間引きする「摘蕾(てきらい)」。残した果実に栄養を集中させるための作業だが、やり過ぎると収穫量が減るリスクを伴う。「いる、いらないを見極め、攻めた作業をしている」と、吉澤は大胆にも木の半分以上の蕾を摘む。それも大きくて甘いナシにするため。「お客さんに『おいしい』と言ってもらえるのがやりがい」と話す。
高齢化や後継者不足などで、昨年の県内のナシ栽培面積は約323ヘクタールと、10年前から120ヘクタール以上も減少している。その一方で彩玉の人気は過熱気味だ。JA南彩(春日部市)では、直売所で彩玉の販売を始めた21日、用意した約300袋が開店から1~2時間で売り切れた。朝5時半から並んでいた客もいたという。担当者は「今、一番人気の品種。スーパーにあまり出回らないので、直売所に並んで買う人が増えているようだ」と話す。
吉澤は「単に『ナシ』とひとくくりにされていたのが、『彩玉』と名指しで注文を受けるようになった。良い品種なので、もっと多くの生産者に作ってもらい、県内のナシ栽培を活性化させたい。そうすれば若い世代の参入も増えるだろう」と語った。(敬称略)
■「赤ん坊の頭」の衝撃
彩玉は1984年に、新高と豊水を交配し、約20年かけて開発された。育種に携わった県農業技術研究センター(久喜試験場)の果樹担当、島田智人(56)は、彩玉が実った時の衝撃を振り返る。「赤ちゃんの頭みたいなナシが連なっていて驚いた」
島田は1991年度に県庁に入庁し、同センターに配属された。新品種開発のため八つの組み合わせで交配した苗200本以上があり、同年に果実の調査が始まった。担当となった島田は、数十~百個の糖度や食味を確認し、選抜する作業を繰り返した。「だいたいは硬かったり、酸っぱかったりとまずくて食べられなかった」と苦笑する。
彩玉について島田は「中くらいの評価」だったが、97年に当時の上司が「大きくて収量がある」と目を付けた。そこで本格的な栽培に取り組んだところ、重さ700~800グラムという大型、かつ糖度の高い品種に成長。それが決め手となり、2005年に品種登録された。
島田は「20年以上前、重さ1キロを超えるナシはなかったのですごいインパクトだった。ナシは国が育種したものがメインで、県の品種としては大成功の部類。県内で定着し、本当にうれしい。ライバルがいる中で20年残っているのが奇跡」と笑顔を見せた。