「極悪女王」ゆりやん、唐田、剛力ロングインタビュー「出演してなかったら私はどうなってたのか怖くなる」
1970~80年代の女子プロレスの隆盛と“最恐ヒール”として名高いダンプ松本の知られざる物語を描くNetflixの連続ドラマ「極悪女王」が9月19日から世界配信される。オーディションでメインキャストを勝ち取ったのは、ゆりやんレトリィバァ(ダンプ松本役)、唐田えりか(長与千種役)、剛力彩芽(ライオネス飛鳥役)。代役を立てず、ほぼ全シーンにおいてハードなプロレスアクションをやりきった3人に懸けた情熱や舞台裏を聞いた。
【目次】
(1)最初はアメリカで売れたくて
(2)フィクションじゃなくドキュメンタリー
(3)涙を流しながら食事
(4)覚悟表現した髪切りデスマッチ
【(1)最初はアメリカで売れたくて】
▼記者 役柄を演じるにあたってレスラーの皆さんの魅力はどこにあると感じていますか。
★ゆりやん ダンプ松本さんは極悪のヒール、最恐レスラーですけど、元々は松本香さんというめっちゃかわいくってピュアでまっすぐな女の子。世の中や世間に怒っているだけじゃなく、自分に対してのもどかしさもきっとあったと思う。世の中の全員に嫌われても、悪役に徹するっていうのは本当に強さ、覚悟、優しさもあるんですけど、全ての感情が詰まった人柄で本当に全てが魅力。大好きな方です。
◆唐田 長与千種さんはいろいろ経験してきたからこそ人の痛みが分かっている人で、すごく魅力的だと思います。
■剛力 ライオネス飛鳥さんは本当にプロレスが大好きで強くて。本来だったらもっと違うやり方でプロレスラーとして目指したかったものがあると思っていたと思う。その中でも「クラッシュ・ギャルズ」で長与さんと組んで、守る姿だったり、助けに行く姿だったり、その秘めた強さというか、自分がすごく表に出るわけじゃないけど、そんな時に出る瞬間的な強さはかっこいいと思いました。言葉数が多いわけではないけど、信念を持っている姿がすごく魅力的。
▼記者 オーディションで選ばれましたが、通過した時の気持ちと、どんな準備をされていたか、受ける以前に持っていたプロレスへの印象やイメージを教えてください。
★ゆりやん 私はまずプロレスのことを全く知らなくて…。あ、「プロレス」っていう言葉はもちろん知っていましたよ(笑)。オーディションに受かってから、ダンプさんに関しての本や、ご本人から聞いてなどでどんどん知識をいただいて。元々、私生活で3年ぐらいかけて体重45キロ減らして、その直後にオーディションだった。本当はNetflixで、白石監督作品で主役のオーディションだから絶対つかみ取りたいって思うべきですけど、やっぱり体や健康のこともあるし、どうしようってめちゃくちゃ悩んだ。でも、ただただリバウンドじゃなくて当時のダンプさんの体に近い、かっこいいプロレスラーさんの体作りっていうことで、筋トレや栄養もできるだけ体に影響がないようにサポートしてもらってっていうことだったらできるかもって覚悟を決めてオーディションに挑みました。受かったら、絶対ダンプさんになるって決めていました。アメリカに進出したいっていう思いがあって。アメリカで絶対売れたいんです私。Netflixでアメリカ行って、「ディスイズミー」「ディスイズミー」って言いたくて。もちろん今となってはそんなことよりも、この体験をさせていただけて、極悪女王に選んでいただいてありがとうございますという思いです。
◆唐田 お仕事がなかった時期に、当時のマネジャーさんからオーディションの話が来ていると聞いて。その時点では12人の女子レスラーの中から、どの役になるか分からなかったけど、マネジャーさんが「長与千種がいいと思う」っておっしゃってくださって。長与さんのことを正直知らなくて、調べていくうちに過去のインタビュー記事を読んで、何か自分と似ているというか、自分のことのように思えることがたくさんあって。勝手にそういう部分からすごく運命的なものを感じ、この人を演じたいって強く思って、絶対に長与千種役を取りたいという思いで挑みました。プロレスのことは、小学生の時に1回見たことがあるのですけど、アジャ・コングさんの試合がとても怖くて。座って見てられないぐらいで立って陰から見ていたのですが、それをアジャさんに標的にされてしまって…。台車を裏から持ってきてバーンってやられるみたいな(笑)。もちろん当たってはないですけど、そういうのがすごく怖かったです。今回、まずプロレスを好きにならなきゃいけないので、長与さんに「実はこういう経験をしていて、プロレスに対して怖いとか痛いという印象が結構強いのですけど、長与さんはどう思っていますか」と聞いた時に、「プロレスは芸術だと思っている」っておっしゃっていて。自分が戦って、何回も立ち上がっていく姿を見せていく中で、子供だったり大人だったり見ている人が、自分も一緒になって戦うことができる。この投影できることに、そういう芸術の素晴らしさがあると思うのだと。皆が日々思っている悔しさだったり、生きづらさだったりを全部プロレスは体現できる。皆を主人公にできるとおっしゃっていて、その時は「そうだったんだ」って感じだったのですけど、エキストラさんが1日に何千人も入っているすごい規模の撮影の時、その声を聞いているだけでも出てくるパワーを演じながら感じて、本当にプロレスは芸術だって長与さんの言葉がやっと分かりました。
■剛力 正直、作品に携わらせていただく前はプロレスってほとんど見たことなかったですし、たまたまテレビでやっていても、「怖い、痛そう」でチャンネルをすぐ変えちゃうみたいなレベルで痛々しいし、なんだろうという感覚でした。実際はめちゃめちゃ奥が深いし、やっぱり相手と戦っていてもお互いの信頼関係、思い合っている感覚がないとできないことだとすごく感じた。それって撮影だったりお芝居だったりにも通じるものがすごくある。もちろん勝敗を付けていますけど、でもその中でどういう風に見せていくか。どう相手にやられたことによって、その痛さとか苦しさ、悔しさを見せていくかは本当にお芝居と通じるものが。本当にプロレスへの見方、感じ方がすごく変わりました。私自身オーディションのお話をいただいたのが、ちょうど撮影に入るのが30歳になる年で、独立したタイミングの後だった。30歳にもなるし、自分が今まで経験していないことをやるにはすごくチャレンジさせてもらえると思った。本当にこの作品にこのタイミングで出合えたっていうのは、運命というかご縁だったなって。
▼記者 プロレスシーンで印象的なシーンや技、挑む上での覚悟などはいかがだったでしょう。
★ゆりやん 印象的なシーンは全てです。われわれは撮影と言わずに、試合と呼んでいた。全部の試合が印象的ですけど、ダンプさんと長与さんは香時代からずっとやってきて、途中で微妙な関係性になって心がすれ違っていろんなことがあっていがみ合っている時に、えりかちゃんから本当は仲がいいけど、ダンプさんと長与さんのこの感じを実際の自分たちでも体験できるように、しゃべらずにあいさつもしないようにした方がいいかもという話になって、そこから2人ともあいさつもしゃべりもしなくなった。そしたら本当に私たちこんな仲良かったのに、めっちゃ気まずいみたいになって。髪切りデスマッチの時に、前日のリハーサルでいろいろ2人でやったんですけど、あまりタイミングとかうまくいかなくなって。そしたらその日の夜にえりかちゃんが「レトリご飯行かない?」って言ってくれて、久しぶりにいろいろしゃべって。この時って私たちはどういう気持ちだったのだろうかとか話し合って、髪切りのときは「あそこあれぐらいやるよ」とか決めて。次の日から本当に何か息がぴったりで、うまくいった。あの時、みんなそれぞれいろんな気持ちを背負って、もう実際のその時みたいな感じで。えりかちゃんも髪の毛を本当に切っているから、何回も間違いがないようにみんなでやって。髪切りのシーンが終わって、こんな髪形になってすごい覚悟で挑まれているし、いろんなことが「あぁ~」ってなるんですけど、ダンプさんって切った方やから、やってやったみたいな感じなのかと思いきや、あの時の感情が何かは分からないですけど、とにかく震えと涙が止まらなくなって。めっちゃすごい覚悟でやってはったんやろうなみたいな。それが非常に印象的だったのと、後は引退試合の時。その時代にお客さんも一体となって全員タイムスリップして、その時代を体験したかのような信じられない空間でした。
◆唐田 受身が多い役だったので、ひたすら受身を受けることに結構怖さがありました。蹴りが得意な選手ということもあり、居残りで蹴りを練習したりキックボクシングに通ったり。長与さんの得意技のニールキックという飛び上がって相手を蹴って受身を取る技を、難しいからできると多分最初思ってもらえてなかったので代役を立てる話もあったのですが、悔しくて絶対に自分でやりたいと。本当に皆がちゃんとプロレスをやっているのでそこが見どころです。(印象的なシーンは)レトリが3話のダンプ覚醒の時にやってきて、上から見下ろされる時の顔をすごく覚えていて。ダンプ覚醒の時は、2人とも落ちこぼれだったけど長与が先にスターになっていく中で、やっぱどこかで「香ならついて来られるだろう」みたいな思いもあったと思う。あの試合の中では痛めつけられ、怒りもありますが、どこかであの顔を見たときに、不思議と「待っていたよ」という気持ちになって。そういう自分が表現する上で、想像していなかった感情を抱かせてもらえました。
■剛力 ジャガー横田(水野絵梨奈)と戦っている時のからちゃんの目がもう忘れられなくて。その目が鳥肌が立つぐらい「あ、スターだ」って思った。この人は本当に長与千種としてもだけど、唐田えりかとしてめちゃめちゃ輝いていると。その時、ライオネス飛鳥としてこの人を輝かせるためにどう生きようっていう覚悟をもらったというか。目に宿る情熱やエネルギーがずっと消えずに残っていた試合で。ゆりやんさんは、香からダンプ松本になっていく瞬間の表情の違いが。それはお芝居の中でももちろん、リングの上に立った時のあの表情の変わり方が本当にすごい。メークだけでできることではない。(ダンプ松本とライオネス飛鳥が)戦うシーンって意外と少なくて、私はどちらかというとリングで見ていることが多かった。やっぱり(ゆりやんと唐田の)2人のエネルギーはすごいし、そこに混ざれないのは悔しいなって思う瞬間もあるぐらい。でも一番近くで見られたので、特等席でした(笑)。
【(2)フィクションじゃなくドキュメンタリー】
▼記者 ダンプさんは世の中から嫌われ、たたかれまくってすごく孤独な存在だったと思うが、なぜヒールをやりきったのか。演じる上で共感する部分や同じようにわきあがってくる感情はありましたか。
★ゆりやん それを言われてみたら確かに。ダンプさんは飛鳥と千種がクラッシュ・ギャルズとしてどんどん行く姿を見ていましたし、最初ずっと全然うまくいかない者同士で千種と一緒にやっていた。それが急にスターになって、自分が取り残されている焦りや不安、自分に対してのもどかしさもあったと思います。でもプロレスラーになりたいっていう思いはずっと子供の頃から持っていたじゃないですか。多分、覚醒した時、私はヒールでやるんだっていうのはもちろん思ってなかったと思う。千種を倒してというか、痛めつけてリングに上がった時に観客から「帰れ!帰れ!」って言われた時、初めて自分にみんなが注目してくれたというか、あそこで初めて自分がここなんだっていうのがあったと思うんです。そこからあんなに日本中に嫌われて家族にも迷惑かけてきっと大変な思いも覚悟もあったと思うけど、でもやっぱり私はこれをやりたいっていう夢を貫くというか、自分のやりたいことはこれだって。そのために覚悟してやるという部分は非常に尊敬しますし、分かるというか。私も子どもの頃にアイドルになりたかったのですよ。
★一同 ・・・・・。
★ゆりやん ええやろ!!(笑)。アイドルになりたかったんですけど、アイドルの人って目の下に膨らみがあって私には無いやとか思っていたら、吉本新喜劇を見て「めっちゃ面白い!この世界」って。見たやつをまねしてやったら、みんな笑ってくれて。お笑いって私がスポットライトを浴びられるところじゃないかって思った。今で言うと、何でもたたかれたり、自分がやりたいと思ったことを批判されたりすることもあると思うけど、自分を貫いてやっていくってめちゃくちゃ大変なことである一方、気持ちいいことでもあると思う。
▼記者 唐田さんと剛力さんはヒール役をやっているゆりやんさんを見て、役柄としてでもいいですし、ご本人としてでもどういう感情を抱いていましたか。
◆唐田 正直初めはレトリはこの印象でしかないから声をどうするのだろうとか、かわいいマスコットみたいなイメージだからどうなっていくのだろうとちょっと楽しみではあった。(覚醒シーンを撮り始めたら)そんなこと忘れていたぐらい、本当にダンプ松本さんみたいで。見た目の再現度もすごいですけど、多分もう全部がダンプさんとつながっているのだろうなってくらい。もう立っている姿だけでダンプ松本だった。見ている人をいらつかせる感じがフィクションじゃなく、ドキュメンタリーみたいだったなってすごく思った。レトリの覚悟が全部現れていたなって思います。かっこよかったです。
■剛力 私の演じた飛鳥は、その覚醒したタイミングと並行して、クラッシュ・ギャルズにも疑問を持っていた人間だった。本当に芸能活動をし続けていいの?って。素直にプロレスがやりたいっていう立場だったので、感覚的にはすごく距離を置いていた。ちょっとこの2人のやっていることは私には理解ができないみたいな気持ちでいた部分が飛鳥としてはあった気がして。でも、だからといって素直なプロレスしたってお客さんには受けないみたいなもどかしさは多分自然と出ていたのかな。
▼記者 お三方にとってすごく転機になった作品だと思いますが、今作で得た物、自分のキャリアでどういう位置付けになりそうですか。
★ゆりやん 得たものがありすぎて、逆に出させてもらえてなかったら私どうなっていたのって思って怖くなる。私の人生にとって分厚いもの。キャリアに関しては最初「やった~。アメリカ。Netflix。イエーイ」って感じだったです(笑)。でもそれ以上のものというか、皆さんと出会えたこともそうですし、スタッフさん全員のプロフェッショナルな世界で長い間一緒にやらせてもらったということ、コントではできないような人生で初めての体験、自分の心から本当に湧き上がってくる、悲しいから涙を流そうとか、怒っているシーンやから怖い顔しようとかじゃなくて、本当に腹が立つから、悔しいからという感情が湧き上がる体験が初めてだった。芸人としても人間としても表現することが今までできなかった、表現の仕方も分からなかったような感情や自分の部分を思いっきりさらけ出すことができて、それが非常に大きかった。
◆唐田 私は転機になったというか、本当に自分にとってとても大きい作品で。やっと代表作だと胸を張って言えるものができたかもしれないといううれしさもありますし、お仕事がなかった時期に決まった作品でもあるので、それを決めてくださった白石監督、向き合ってくださった事務所の社長、マネジャーさんや家族。本当に私はその人たちがいるから頑張ることができる。やっとその人たちに届けられる作品ができたことが率直にうれしいです。
★ゆりやん (唐田に)良かったなぁ。
■剛力 皆さんがイメージしてなかったものに挑戦させてもらえた。どういう風に見られるか分からないというのはありますが、ここまで挑戦したんだなって思ってもらえたら素直にうれしいです。本当に素晴らしいプロフェッショナルな撮影チームで、それぞれの場所で皆さんが全力を尽くしてくださっている環境でやらせていただけた。今までもいろいろな作品をやらせていただいた中で、初めてのことも経験した撮影現場だった。私自身はある意味、自分を俯瞰で見るということをすごく学んだ。リングの上では本気でぶつかりあう、そこで湧き上がる感情の中で、どこかで冷静になっている自分がちゃんといて。最近、お芝居をしていても、どこか客観的な自分がいるというか、違う自分がこう見ているみたいなものがあり、それはそれですごく楽しいし、また違う芝居の仕方を新たに発見したなと。
★ゆりやん (剛力に)良かったなぁ。
【(3)涙を流しながら食事】
▼記者 トレーニングや体作りの部分を詳しく教えてください。
★ゆりやん 体作りは減量からお世話になっている先生に付いてもらって。まず筋力トレーニングは、ほぼ毎日。肥大するように大きい筋肉になるようにいろいろメニューを組んでくださり。実際にプロレスの動きをする時に必要なので体幹も鍛えてそれに耐えうる体力や筋肉を付けてもらっていました。脂肪を付けるとなったら食べないと増えないので食べることもやるのですが、何でもかんでも食べるというよりは、体に負担のないような食事を心がけて。でもおなかいっぱい食べないといけないので、なんでこんなに太るのって大変なんだって初めて人生で思って。そのままジムに行って動けなくて、じっとして終わったりもあったりしたのですけど。最終40キロぐらい増量しました。Netflixさんは毎月、血液検査や健康診断をやってくださって、異常なしで無事に撮影に挑んで終わるまで健康でいられたことを感謝します。
◆唐田 この役が決まった時に10キロ増量しましょうということになって。撮影の半年前から剛力さんと一緒だったのですけど、週3のトレーニングと、週2回のプロレス練習をみんなで一緒にやり始めて、食べることが面倒くさいってことがあるんだって位食べて。かむことも面倒くさいし、常におなかいっぱいで気持ち悪いけど食べなきゃと。一緒にご飯に行った時、(ゆりやんが)4人前のお肉を1人で食べているのを見て、自分ももっと頑張らなきゃと。特に私と剛力さんがなかなか太りにくいのもあり、栄養士さんも血液検査に悪いものが出ない限りはまずあなたたちの好きなものを食べてくださいと。とにかくラーメンが大好きなので、ラーメンをめっちゃ食べて。でも血液検査は意外と異常がなくて(笑)。
■剛力 基本的には皆さんと一緒で。何食べても味がしないくらい、本当に泣きながら。元々お肉をあまり食べないので、とにかくカロリーがある物を。トレーニングをするので、消費しちゃう分カロリーもさらに取らなきゃいけない。私はどちらかというと筋肉で体を大きくしていこうとしていた。もちろん食べるけど、筋肉でもうちょっと大きく見せられるような方に持っていかないと、脂肪が付きにくいので。結果的に10キロ増量しました。
★ゆりやん 焼き肉と山盛りご飯ばっかりだったんですよ、基本。焼き肉屋さんとめっちゃ仲良くなっちゃった(笑)。
▼記者 元々プロレスに対してちょっと怖いイメージがあったという中、初めての経験が多かった現場だったと思いますが、これはちょっと本当に苦しかったとか、もうあかんと思われたシーンやエピソードがあったらお伺いしたいです。
★ゆりやん 私は結構やっつける方だったので、そういう意味ではまた違うと思いますが…。ちょっと思い出します。思い出した人から言ってください。
■剛力 つらいなと思ったのは初期の頃のロープワークですね。
◆唐田 確かにロープワークはきつかった…。
■剛力 練習のシーンで、2人一組になって入れ違いで、ずっと続けているとかなり痛くなる。撮影何回かやらなきゃいけない時に、そのあざができた状態、痛みがある状態でもう一回やるととても痛いです。ただ、後半になるにつれてなぜか全く痛くなくなるという。あんなに痛かったのに何だったのだろう。技とかで言えば、もう基本的に全部やっぱりつらかった。
★ゆりやん 大声でずっと「このやろ~」とか言っていると、声が出なくなってくるっていうところですかね。
◆唐田 ちょっと質問とはずれるのですが、受身も大変ですけど、多分技をかける側の方が大変なんじゃないかなと思いました。たまに自分がやり返してやるという時に、これでけがさせちゃったらどうしようという怖さが出てくるので。
★ゆりやん でもそれは私もたまにやられるシーンがあって、やられている方がすごいなって思った。やられている人の立場になるとめっちゃしんどかった。
【(4)覚悟を表現した髪切りデスマッチ】
▼記者 敗者髪切りデスマッチで、唐田さんは例えばウィッグとかを使うことも考えられたと思うのですが、それを地毛で挑まれたっていう理由と、その姿を見たお二方はどう思われましたか。
◆唐田 頭を刈るのは、オーディションの時の条件として入っていたことで、自分としては、それ以上に長与千種という人物にひかれていたので、自分の中ではそんなに大変なことではなかった。ある種、そのシーンを撮ることで、自分の中にある覚悟を表現できるというか、ぶつけられる思いでこのシーンに挑みました。「自分の覚悟です」っていうものになったというかなるといいなと思っていますし、それをぶつけた感じです。
▼記者 ゆりやんさんは切る時にいろんな感情が湧いてきたっておっしゃっていましたけど。
★ゆりやん 今、ご本人もおっしゃっていましたけど、「あ~すごいな唐田えりか。髪の毛を坊主にするんだ」という以前に、そのレベルじゃないぐらい根性があるのを見てきていて、本当にすごいことですけど、「いや、そら切るよな唐田えりかやから」って思っちゃうぐらい。多分、急にある日突然坊主にするシーンとかやったら「えっすごい!」ってなりますが、それ以前からの努力や根性を見ていると、ナチュラルに私たちも受け止められて。もちろんすごいことですけどそれ以上にそれまでもすごかったので。やっぱりさすがやなみたいな感じでした。
■剛力 もうあの時、私は血だらけの千種(唐田)を見ているので、そこに対しての思いの方が強すぎて、髪を切られるとかよりも、早く止めてくれみたいな。早く千種を返してみたいな感覚になるぐらい、それ以上のことがあそこで繰り広げられていた。やっぱりダンプさんもダンプさんでそこに覚悟があっただろうし。ゆりやんさんもきっと一発しかできない、失敗が許されない環境の中での覚悟というか。たくさんの人の思いが集結していたからこそ、エネルギーも強かったすごいシーンだった。けど最後の最後、やっぱり丸刈りになった唐田えりかはかわいかった。すごく似合っていました。
★ゆりやん 透明感あったなぁ。
■剛力 生まれ変わったじゃないけど、何かがとれたみたいな感じはあったねぇ。
▼記者 現代ではいろいろな推し活がありますが、当時、特に女性が女子プロレスにひかれた理由って、お三方こうして演じられてみて、どこにあると考えていますか。
★ゆりやん 歌とかも出されて、アイドル的に憧れるっていう部分ももちろんあったと思うけど、自分もリングの上に立たしてもらって、本当にエンターテインメント、エンターテイナーなんです。どの角度から見てもかっこいい、かわいい、面白いっていうのはもちろんみんな好きになるよねっていう。心ひかれるのが分かります。
◆唐田 本当に芸術だと思うし、今でもプロレス観戦に行くことがありますが、だんだん見ているだけじゃなくなる。カウント取られそうな時とか「起き上がってくれ!」みたいな。普段自分が体現できないことを体現してくれる魅力があります。
■剛力 一番近くでダンプ松本と長与千種を演じている2人を見ていて、「そりゃ、推すよね」っていう。やっぱりヒールに徹している、やられる方に徹しているという、その魅力ってなんですかね。多分、生い立ちやその歴史を知っているからこそ、すごく愛らしかったり、キュートでチャーミングな部分があったりして。人間味に魅力がある人たちが本当に多いです。特に(長与さんらに)教えてもらいながらやっていたっていうのは大きいかもしれないですけど、その人の人間味や人生観、戦っている姿を応援したくなるというか、うーん不思議ですね。エンターテインメントだなってすごく思うし、奥が深い。
▼記者 最後にお三方からそれぞれこういうところに注目して見てほしいなど改めて視聴者へのメッセージを。
★ゆりやん これをドラマと思わずに見ていただけたら。プロレスを観戦するかのように人を、それぞれの人生を観戦するかのように。しかもこれが実際に実在された方だという。ぜひご本人方の当時の様子と比べながら見ていただくと、どれだけこの作品にタイムスリップ感があるかということを分かっていただけるのでは。世代の方はもちろん、世代じゃない方もぜひご覧いただきたいと思います。
◆唐田 本当に熱量が高い作品になったなと。それは自分たちで本当に試合のシーンをやっているのもそうですし、本当に一人一人、私たち以外のレスラーの皆も人生レベルで挑んだ作品なので。その顔を見てくれたらなと思います。
■剛力 スタッフ・キャスト誰ひとりとして欠けてはいけない、という一人一人のエネルギーや熱い思いをすごく感じました。あの時代の中で女性として生きるぞという覚悟や強さを少しでも感じていただけたらなと思います。
【ゆりやんレトリィバァ】1990年生まれ、奈良県出身。お笑いタレントとしては「R―1グランプリ2021」で優勝。俳優やラッパーなど多分野で活躍している。
【唐田えりか】1997年生まれ、千葉県出身。「第77回カンヌ国際映画祭」で国際批評家連盟賞を受賞した映画「ナミビアの砂漠」に出演。韓国でも芸能活動を展開している。
【剛力彩芽】1992年生まれ、神奈川県出身。ドラマ・映画・舞台などで幅広く活躍。2024年は舞台「メイジ・ザ・キャッツアイ」で藤原紀香、高島礼子とトリプル主演を務めた。
(取材・文=共同通信 小川一至 撮影=佐藤まりえ)