審査総評

 32回目を迎えた埼玉森林フォトコンテストは、応募点数415点と昨年の応募点数を少し上回った。新型コロナウイルス感染症対策の制限解除の動きが始まる中、今回はわずではあるが応募点数が増えるという嬉しい結果となった。これもひとえに関係各位の努力のたまものであり、また、当コンテストへの参加そして素晴らしい作品を多数提出された方々にも感謝申し上げたい。

 さて、今年の作品傾向については昨年とはうってかわって、森に関わるようなイベントなどに参加した市民や自然を楽しむ人びとを写し込んだ作品が多く見られた。その内容は、四季ごとの美しい森林風景や、一般市民らが森の自然を存分に楽しんでいるような場面を撮影した作品が数多く寄せられた。全体的には、参加作品の質的内容が高く、審査員の一人として選ぶのが難しいほどであった。しかしながら、本コンテストの重要なテーマの一つである森づくりや森林の維持、管理などに関わる内容の作品投稿が大きく減少していることから、次回以降の応募増に期待したい。

優秀作品

特選・埼玉県知事賞

古木の境内

「古木の境内」

撮影地:横瀬町

撮影者:荻野利夫さん(熊谷市)

ダイナミックに周囲をへい睥げい睨するように写し込まれた600年もの齢を経たコミネカエデの巨木。そしてそれをよぎる幾筋のもの斜め光線。その古木の枝先には、黄葉するたくさんの葉が光を浴びて美しく黄金色に輝いている。さらにはその下端には赤い帽子を被った石像が鎮座している。この一コマは、厳かな自然の移ろいと人の営みをさりげなく融合させ、美しくまとめ上げた非の打ち所のない作品である。

準特選・埼玉県緑化推進委員会賞

「ひ孫と落ち葉掃き」

「ひ孫と落ち葉掃き」

撮影地:毛呂山町

撮影者:厚目正さん(毛呂山町)

すっかり葉を落とした雑木林の脇で落葉を掃き集める幼児と老婆。撮影者によれば土地所有者の曾(ひい)孫さんと曾(ひい)おばあさんとのこと。自分の背丈以上のクマデをぎこちなく操る幼児の真剣な表情と仕草、そしてその幼児に寄り添ってクマデを動かす老婆の慈しむような表情が見て取れ、ホッコリするような冬の風物詩に心癒やされる。

準特選・埼玉新聞社賞

「雨あがる」

「雨あがる」

撮影地:小川町

大澤寅三さん(小川町)

撮影者は「4時起きして夜明けを待ち、雲海の動きを見計らって撮影した」という。その甲斐あって、まだ明けやらぬ光を浴びて輝く朝霧と雨上がりの山々を覆い尽くす緑の木々の織りなす荘厳な情景をものにすることが出来た。

優秀賞・埼玉りそな銀行賞

「森のようせいさん」

「森のようせいさん」

撮影地:伊奈町

撮影者:伊藤友希さん(鴻巣市)

濃い新緑を背景に、幼児二人が何かを食べながら語り合っている。斜め上からは初夏の日差しが降り注ぎ、二人を浮き上がらせている。手前の緑の芝をアウトフォーカスにしてファンタジーの世界を上手に作りあげた。そこに写る愛らしい姿は、タイトル通りの妖精のようだ。

優秀賞・AGS賞

「秩父路秋日和」

「秩父路秋日和」

撮影地:長瀞町

撮影者:山口昇さん(長瀞町)

秋たけなわの秩父路に、SLが煙をはきながら鉄橋を疾走する。紅葉した樹木や荒川の流れ、ひっそりと佇む家並みなどを効果的に取り込んだ構成力は卓越している。作品からはSLの汽笛が聞こえてくるような計算し尽くされたシチュエーションである。

優秀賞・埼玉県治山林道協会賞

「黎明(れいめい)」

「黎明(れいめい)」

撮影地:皆野町

撮影者:逸見照三さん(小鹿野町)

春雪をまとった集落の佇まいと左後方にたなびく雲海の早朝の様子は、撮影者の言葉通りの「天空の里」である。しかも、雪の降った翌日にこの場所を選び、光の加減、アングルなどを決め、このタイミングで撮影できたというのも偶然ではなく、日頃からの情報収集と経験の積み重ねで作りあげた素晴らしい作品である。

優秀賞・ダイドードリンコ賞

「川と緑とSLと」

「川と緑とSLと」

撮影地:皆野町

撮影者:佐藤常利さん(皆野町)

青空に広がる白い雲。緑の山並みを背景に鉄橋を走るSL。そのSLの姿を目で追う川遊びの人びと。それらの状況をタイミング良く撮影した文字通りの「絵に描いたような」場面である。画面構成、シャッターチャンスなど申し分のない作品である。

優秀賞・日本製紙賞

「緑のオーディエンス」

「緑のオーディエンス」

撮影地:所沢市

撮影者:吉田和子さん (所沢市)

所沢市にある航空記念公園の芝生広場での一コマである。背景の大木はクスノキであろうか、その木の下で学生とおぼしき二人がフルートとトロンボーンの練習をしている。周囲の木々をオーディエンス(聴衆)に見立てて撮影した撮影者の感性が光る。樹々の取り入れかたや人物の配置バランスなど文句なしの作品である。

佳作作品

「ナイトコンサート」

「ナイトコンサート」

撮影地:飯能市

撮影者:原澤宏さん(飯能市)

星が光跡を曳き町中の光源が夜空を僅かに染め上げ、そこに3体の楽器を奏でる木偶人形がたたずむ。なんともユーモラスで、不思議な世界を醸し出した。昼間の世界であれば、さほど目を惹くような情景ではないが「夜」、しかも星空と町の灯りを効果的に取り入れたことによりシュールで異次元の世界を作りあげた。

「チョット一休み」

「曼珠沙華舞う」

撮影地:日高市

撮影者:山下一成さん(東京都台東区)

巾着田の雑木林の林床には、約百万本が群生すると言われる見事なヒガンバナが咲き乱れる。今まさにアゲハチョウが、そのヒガンバナに取りついて蜜を吸おうとする瞬間を見事に捉えた。背景のヒガンバナのボケ足がアゲハチョウを際立たせいる。惜しむらくは右下にヒガンバナが中途半端に映り込んでいるので、カットしたいところだ。

「たれそかれ」

「たれそかれ」

撮影地:長瀞町

撮影者:藤原正宜さん(加須市)

夕刻迫る紅葉真っ盛りのイロハカエデに包み込まれた大きな岩の上に、少年が一人たたずんでいる。少年がなぜ、ここにいるのか写真からは読み解けないが、あまりの美しい紅葉に惹かれて来てしまったのだろうか。賑やかな紅葉の中の添景として少年の存在が異彩を放っている。タイトルの「たれそかれ」(あなたはだれ?)と黄昏(たれそかれはたそがれの語源ともいわれる)をかけたこだわりのあるタイトル付けだ。

「落葉の流れ」

「落葉の流れ」

撮影地:ときがわ町

撮影者:沖舘宏さん(滑川町)

「紅葉した葉が道路を覆い、川の流れのように見えた」とは撮影者の言葉だが、まさに言い得て妙である。黒いアスファルトの上に、まるで計算したかのように並んだ落葉の数々。黄色の葉、橙色の葉などが点在する様はさながら紅葉の川である。上方奥の光を浴びて輝く紅葉を写し込むことでより奥行き感が増した。

「涼を求めて」

「涼を求めて」

撮影地:毛呂山町

撮影者:大谷木春男さん(毛呂山町)

毛呂山町、谷川の上流にある宿谷の滝。周囲は木々に囲まれ、苔むした岩壁を流れ落ちる美しい滝だ。滝を訪れたグループの一員であろうか滝に打たれている。その様子を全員が心配そうに見守っている緊迫感が伝わってくる。滝、人物の配置、シャッターチャンスなど申し分ない。

「新緑と子供たち(1)」

「新緑と子供たち(1)」

撮影地:秩父市

撮影者:谷山ゆみさん(所沢市)

新緑のケヤキをバックに保育園児であろうか、保育士と思われる人物を囲んで何やら水面を覗いていており、それが水鏡に反射している。春ののどかな光を浴びて子供たちの歓声が伝わってくるかのようだ。背景いっぱいに丸みを帯びたケヤキの樹を大胆に配置し、その側に小さな子供達を写し込んで対比の妙味をうまく作品にまとめた感性が素晴らしい。

「森の花園」

「森の花園」

撮影地:皆野町

撮影者:髙澤洋次さん(横瀬町)

梅雨時の皆野町金沢地区スギ林内の様子だ。林床には約4,000株の色とりどりのアジサイが植栽されている。整然と立ち並ぶスギの幹の合間にパッチワークのように白や青、ピンクのアジサイの花が見え隠れする様を美しくまとめた。欲を言えば、添景として歩道を散策しているような人物像があっても良かった。

「春の宴」

「春の宴」

撮影地:行田市

撮影者:磯谷孝一さん(新座市)

作品の舞台である古墳公園は行田市にある埼玉県営の都市公園で、国の史跡になっている。日没を迎え、墳墓に植えられた満開のサクラをかすめるように、望遠効果で拡大された赤い巨大な太陽が今まさに沈もうとしている。夕闇が辺りを包み込み、暮れていく情景は神秘的でダイナミックである。

「森の手入れ 落ち葉かき」

「森の手入れ 落ち葉かき」

撮影地:嵐山町

撮影者:杉田庄治さん(嵐山町)

嵐山町で行われている雑木山での落葉掃きイベントの様子である。地元の緑の少年団員とその父兄、指導者等が力を合わせて落ち葉を掃いている。雑木林を背景に参加者等の動きと落葉の山の対比が目を惹く。

「夕暮れのジョギング」

「夕暮れのジョギング」

撮影地:東松山市

撮影者:長谷川愼一さん(東松山市)

周囲の森を包み込み、今まさに太陽が沈もうとしている。「夕景を撮っているとジョギング中の二人が通りかかったので太陽との位置を考え撮影した」とは、撮影者の言である。冠水橋として知られる鞍掛橋を二人のジョッガーが通りかかり、太陽を横切る直前でシャッターを押している。絶妙なタイミングとしっかりした画面構成が光る。

「わたしの森」

「わたしの森」

撮影地:飯能市

撮影者:馬場歩さん(上尾市)

背の低いウバメガシの叢林の中を走り回る幼女の仕草が愛らしい。よく見ると表情も生き生きとして笑顔がほころんでいる。なんとも心はずむ場面である。欲を言えば、もう少し幼女に近づいて撮影すると、より訴求力が増すと思われる。

「吸いこまれそう」

「吸いこまれそう」

撮影地:さいたま市

撮影者:横山由紀子さん(さいたま市)

作品を見ていると目の錯覚で画面中央に吸い込まれてしまいそうな感覚に陥る。青空に雲が漂う情景とそれが写り込む水面、そして森、並木の景観をシンメトリーに切り取り、一枚の作品に仕上げた見事な画面構成である。また、作品のタイトル付けが絶妙である。