審査総評

33回目を迎えたさいたま森林フォトコンテストは、応募点数382点と昨年の応募点数を僅かに下回った。昨年5月に新型コロナウイルス感染症対策としての行動制限が解除となってはいるが場所によっては、まだ以前のような賑わいを取り戻せていない。こうした状況下でのコンテスト開催であるが、僅かな減少で済んだのもひとえに関係各位の努力のたまものであり、また、素晴らしい写真を撮影、投稿してくださった方々に心より感謝申し上げたい。

さて、今年の作品傾向だが、行動制限のなかった以前のように森の中で自然を楽しむ人びとの様子を活写した作品が多く見られた。また、四季折々の美しい森林風景や、森林などに生息する鳥や昆虫などの貴重な生物写真なども多く寄せられ、質の高い作品に目を見張ることとなった。しかしながら、本コンテストの重要なテーマの一つである 「森づくりや森を守り育てる場面を撮影した」作品が大きく減っていることから、次回以降の大切なテーマとして再認識していただき、投稿してくださることに期待したい。

優秀作品

特選・埼玉県知事賞

早朝の紫陽花

「早朝の紫陽花」

撮影地:皆野町

撮影者:村上 勇さん(深谷市)

作品は、秩父市と皆野町にまたがる広大な美の山公園で早朝に撮影されたものである。朝焼けが、眼下の雲海と空をオレンジ色に染め、満開に咲き誇る赤色や青色の紫陽花たちをも染め上げた瞬間を見事にとらえた。撮影者は、事前に太陽の位置や花の咲き具合などを調べ上げ、日の出を待ち、雨上がりの雲海を狙ったという。その努力の積み重ねがもたらした納得の成果である。「努力なくして成功なし」という格言を地でいった。

準特選・埼玉県緑化推進委員会賞

「ナラの実の道」

「ナラの実の道」

撮影地:狭山市

撮影者:水上 貴夫さん(狭山市)

道いっぱいに広がるコナラのドングリに焦点を合わせ、下から撮影したおかげで質感、量感がともに強調され、不思議な世界を作りあげた。さらには、画面中央奥に郵便配達と思われるオートバイが排気ガスを出しながら走り去っていく姿を写し込み、臨場感を盛り込むなど細かな画面構成が目を惹く秀作である。

準特選・埼玉新聞社賞

「自然の中で」

「自然の中で」

撮影地:深谷市

撮影者:栗島 祥次さん(東秩父村)

埼玉県・農林公園の雑木山の遊具で遊ぶ母子のスナップである。丸太輪切りの遊具を渡る幼児の手を取りながら歩みを手助けする母親。幼児の不安げな表情とおぼつかない足取りに、声をかけ励ます。背景に緑の木々と遊具の遊びに興じている子どもらを取り込んだことで、いかにも森の「自然を満喫」している様子を表現することができた。

優秀賞・埼玉りそな銀行賞

「春の花祭り(1)」

「春の花祭り(1)」

撮影地:秩父市

撮影者:加島 広さん(所沢市)

花祭りは秩父市の塚越地区に古くから伝わる行事である。前日に集めておいた野山の花を「早朝から子どもたちが、参道に花を撒きながら薬師堂にお参りをする」という当地区ならではの華やかな伝統行事だ。薬師堂前で花をまき散らす子どもらの表情や仕草がなんとも楽しそう。祭りが盛り上がる瞬間をとらえることができた。

優秀賞・日本製紙賞

「晩秋の栃本集落」

「晩秋の栃本集落」

撮影地:秩父市

撮影者:髙澤 洋次さん(横瀬町)

栃本集落は埼玉県西部、荒川の最上流域にあり、天空の村、天界の集落といわれ、その言葉通り、標高750m前後の斜面に家々が寄り添う歴史ある集落である。その栃本集落を右方に写し込み、手前中央部に深紅に紅葉するカエデと奥方に濃緑色のスギ林を対比させ、左奥に奥行きのある山並みを配しての撮影。画面構成や配色バランスとも出色の作品である。

優秀賞・埼玉県治山林道協会賞

「ホダ木の管理」

「ホダ木の管理」

撮影地:寄居町

撮影者:武内 道直(寄居町)

きれいに整備された広葉樹林の中に、シイタケ栽培の種菌を植えられたホダ木が並べられている。約1万本のホダ木を寝かせて一定期間養生するとのこと。二人の作業者が手際よく並べており、呼吸の合った作業の様子が直に伝わってくる。シイタケ栽培は、近年ではオガクズなどを利用した菌床栽培が主流となり、撮影者は「味の良い原木栽培もある」ということを写真を通してアピールしたかったそうだ。

優秀賞・ダイドードリンコ賞

「心も軽く」

「心も軽く」

撮影地:日高市

撮影者:古屋昇(日高市)

春まだ浅い広葉樹林とその山裾に咲く満開の桜と菜の花を背景に、ダイナミックな姿で飛翔するアオサギを見事にとらえた。コンデジで撮影に苦労したというが、画面構成、シャッターチャンスなど申し分のない作品である。

優秀賞・AGS賞

「新緑の公園で」

「新緑の公園で」

撮影地:毛呂山町

撮影者:大谷木 春男さん(毛呂山町)

毎週、高齢者を対象に行われている毛呂山町オリジナルの健康体操会での一コマ。いつもは室内で行われているのだが、当日は新緑がきれいだったので外で行われたとのこと。美しい新緑の木々を背景に、参加者等の気持ち良さそうに身体を動かす仕草がユーモラスでほほえましい。

佳作作品

「空を舞うアサギマダラ」

「空を舞うアサギマダラ」

撮影地:滑川町(森林公園)

撮影者:山下 一成さん(東京都台東区)

長い距離を移動することで知られるアサギマダラが舞っている。魚眼レンズであることから、ほぼレンズの直前で撮影していると思われる。周囲に森の木々を上手く配置し、かつ好物のフジバカマまで取り入れて、動き回る蝶を撮影する撮影者の撮影技術がどれほどのものか想像に難くない。

「朝霧のホダ木」

「朝霧のホダ木」

撮影地:長瀞町

撮影者:安岡 智幸さん(長瀞町)

近年のシイタケ栽培は原木を使わないオガクズを使った菌床栽培が主流で、作品のような大量にホダ木が集積されている現場を見るのは久しい。撮影者は、こうした状況を知っていて、今どきには珍しいホダ木集積場にレンズを向けたのであろう。新緑の樹林内に山積みされたホダ木の黄褐色の木口と、立ちこめる朝霧の取り合わせが印象に残る。

「やっと家にたどりついた」

「やっと家にたどりついた」

撮影地:秩父市

撮影者:関根 伊佐男さん(皆野町)

農作業を終えたのだろうか、急峻な畦道を家路につく年配の女性。右手に杖らしきものを突きながら収穫物を入れた背負子を背負い、歩くというより登ってくる様子が見て取れる。背景には、晩秋の色付いた山肌が迫り、手前には蕎麦がハザ掛けされ、奥山で暮らす生活の一端が丁寧に描かれている。

「自然体験」

「自然体験」

撮影地:滑川町(森林公園)

撮影者:鈴木 篤史さん(鴻巣市))

近年、森林内の新しいアクティビティとして知られるようになったツリークライミング。樹木に専用のロープをかけての木登りで、人気が高い。滑川町の森林公園内で行われたツリークライミングのワンシーンであるが、子どもらが体験している動きのある場面を撮影してほしかった。

「仲良し」

「仲良し」

撮影地:滑川町

撮影者:沖舘 宏さん(滑川町)

撮影者は、黄葉真っ盛りの大イチョウの側で遊んでいた子どもらを見つけ、撮影させてもらったという。毎日、通学時に通る道で遊び場にもなっているそうだ。大イチョウのどっしりした幹と、鮮やかに色付いた枝葉を背景に、愛くるしい笑顔の彼女らを効果的に配置したことで、見る者の心を和ませる作品となっている。

「生命」

「生命」

撮影地:東秩父村

撮影者:藤野 光晴さん(小川町)

濃い緑の葉をグレーのヒノキやスギの樹影が取り囲んでいて、さらに霧が加わり不思議で幻想的な雰囲気を作りあげている。緑の植物体は、一見して樹木のように見えるが、幹のように見えるのは草の茎で、ウラシマソウの仲間のようだ。撮影者は、この植物体を下から見上げるように撮影し、モノトーンの世界に生える緑をタイトル通りの「生命」として見立てることに成功した。

「春が来た」

「春が来た」

撮影地:飯能市

山口 昇さん(入間市)

萌え立つようなアケボノスギの美しい新緑と澄みきった青空、そして家族連れの姿。春の到来を待ちかねたような人びとが公園内に歩を進めていく。タイトルが全て物語っているような早春の情景を上手くまとめ上げた。

「紅葉は続く」

「紅葉は続く」

撮影地:毛呂山町(鎌北湖)

撮影者:下村 光男さん(入間市)

黄、橙、赤など様々に色付いたカエデのトンネルが、半逆光の下で光り輝いている。そのトンネル中を走り抜けるサイクリングの一団と歩を進めるハイカーらの姿。道奥に視線を移すと、紅葉のトンネルはまだ続く。自然を満喫している人びとの様子と美しい紅葉風景を上手くまとめあげた。

「春景の風」

「春景の風」

撮影地:行田市

撮影者:養松 信司さん(北本市)

さきたま古墳公園・墳墓山頂のサクラをアケボノスギ越しに撮影した作品である。手前をよく見ると、近くに咲き誇っていたサクラの花びらが文字通りの「サクラ吹雪」となって舞っている。その瞬間をスローシャッターでうまく捕らえた。奥のサクラ、山頂に至る歩道、手前の木立、サクラ吹雪などの題材をうまく使って画面を構成することができた。

「虹色のリング」

「虹色のリング」

撮影地:長瀞町

撮影者:橋本 武男さん(長瀞町)

作品の虹は花粉光環と呼ばれる現象で、大気中にスギやヒノキの花粉大量飛散のサインである。撮影者は不思議な現象に気づき、花粉の発生元となっているスギの木を探し出し、関連付けて撮影したものと思われる。その際にカラスが映り込んだことで「花粉光環と黒いカラス」という意外な組み合せが不思議な世界を作りあげた。

「雄姿」

「雄姿」

撮影地:寄居町

御供 良一さん(群馬県藤岡市)

樹高18メートル、枝張り東西24メートル、推定樹齢150年を超すといわれる鉢形城のエドヒガンサクラは、県内でも広く知られる存在だ。夜には、開花に併せてライトアップされる。そのライトアップされた立ち姿は、淡いピンクの光を放ち輝き、荘厳である。撮影者は、撮影のアングルや日没時間などの状況を見計らい、タイトル通りの雄姿をとらえることができた。

「田植えを終えて」

「田植えを終えて」

撮影地:横瀬町

撮影者:佐藤 常利(皆野町)

横瀬町で行われた田植えイベントのワンシーンだ。正面には緑の武甲山がどっしりと鎮座し、その手前にはセメント工場が見える。山、セメント工場、水田そしてご夫婦の4つの題材を上手くまとめた構図が目を惹く。田植えを終えた田を眺めながら弁当を広げ、田植えの際の苦労を語りあっているのであろうか、仲睦まじいご夫婦の姿に心温まる。